─第二章─約束をしよう

5/30

152人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 元々そこまで痛みに弱い方では無かったこともあるのだろうが、聖獣になったからだろう。魔法を使っていない状態の苦痛にはだいぶ慣れて、呼吸を乱すことも無くなっていた。  二度目の人生でもこの首輪の仕組みを知っていれば、あんなに苦しむ事も無かったのに、と思わないでもなかった。  まあ……もう終わった事は仕方がないけど。  ただ、慣れたとはいえ、苦しいもんは苦しいわけで。  どうしても体の痛みの方に意識がいっちゃうからか、大してお腹も減らなければ喉も渇かなかった。  ああでも、お腹は好かないのにそれとは別で、なんか足りないなーって思う事があって、何が足りないんだ?って疑問はずっとあったかもしれない。  例の如く、聖獣としての本能的なものと格闘する俺が、問答無用であの子の持ってくる飯や水を事ある毎に突っぱねるもんだから、俺はじわじわと衰弱していった。そりゃあ聖獣っていっても、実質まだ幼体な訳で。……流石に飲食無しはちょっとねえ。  ……じゃあ食えよって?いや、俺としてはありがとうとでも言って無理にでも胃に入れたかった所なんだけどさ……この体が勝手にだね?  ただ、それをあの子は、俺が食べるものを選りすぐっているとでも勘違いしたのか、届ける食事を日によって色々変え出した。  辛そうなもの、苦そうなもの、酸っぱそうなものに塩っぽい味のしそうなもの。  あの子は飽きもせず、色んなものを届けてきた。  毎度の如く威嚇されるのに嫌な顔一つしないで、これは○○の肉です、それは‪✕‬‪✕‬のキノコです、なんて相変わらずの優しい声で食事の説明をしてくるのだ。  そして、そんなある日────。  俺の中の聖獣としての本能との壮絶な戦いは、拍子抜けするほど呆気なく終わりを迎えた。  その日、あの子が持ってきたプレートからは甘い匂いが漂っていた。  懐かしい香りに、遠目からでもわかるあのフォルム。皿に乗っていたのは、フレンチトーストだった。  そう。あの子はこの頃、初めは何処のレストランの料理だよって言うくらい高級そうなものばかり持ってきていたのを、今では方向性を変えたのか一般家庭で出てくるようなスープやパンなど、アットホームなものを持ってくるようになっていたのだ。  そして、その日。  俺は初めて出てきた甘味系に、口の中で涎が凄い事に……だ、だだ大丈夫!流石に垂らさなかったからな。  そして、そんな中、俺はハッと気が付いた。  ……あれ、俺今、威嚇してなくね?  ────と。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加