─第二章─約束をしよう

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 二度目の俺が、人間の出すものなんか信用出来ない、あの貴族の女の子供も無害そうな顔してただろ、とか色々訴えてくる。けどそれより何より、融合した(いまの)俺の意識は目の前のフレンチトーストに釘付けだった。  脳裏には兄貴がたまに作ってくれるフレンチトーストが過ぎる。  『おかえり、あのね……朝ご飯できてるよー……』  兄貴はフレンチトーストを作ってれた日、決まってバツの悪そうな顔をして、朝のバイトを終えて一度帰宅する俺を出迎えてくれた。食卓で待っているのは、何故かあちこち潰れた、ヘッタクソで、甘ったるいフレンチトースト。  料理なんか出来ないくせに、平日の朝から苦手なキッチンに立って俺のために頑張って作ってくれたあの味が、本当は結構好きだった。  もちろん、その時あの子が持ってきたフレンチトーストは綺麗な厚切りで、店で出てくるようなフォルムをしていた。全く似ても似つかないものだった。  ただ、その甘い香りが────…  って、おおい。  気付いたら食べていた。しかも超ご機嫌で。ベッドサイドのテーブルにプレートを置こうとした体勢のまま固まってたあの子の腕にしっぽまで絡ませて。  いや、確かにあっちじゃ甘いものばっか食ってたけどさ。なんか……俺ってここまで甘党だったのかとか、今までの本能との格闘なんだったん?とか、いろいろ聖獣としての本能を問い詰めたくなった。  ま、まあでも……俺だって、流石に腹減ってない訳じゃなかったしな。  とか、言い訳してみるが、結局のところ俺は甘い匂いに勝てなかったらしい。聖獣も動物か。やっぱ好物にチョロいもんなんだな。いや、やっぱ関係ないかもしれない。  多分、俺個人がフレンチトーストにすこぶるチョロかったんだろう。兄貴恨むぜ愛してるごめんすき。  最初の警戒心は何処へ?ってくらいの変わりようには流石の俺も、この掌の返し方はどうにかならんかったのか、と嘆かずには居られなかった。  ただ、その日食べたフレンチトーストは、何故か俺が桁外れの甘党だと勘違いしているらしかった兄貴の作るそれとは違い、適度に優しい甘さだった。  ……フレンチトーストって、意外と卵とパンの味、するんだな。  多分、これほど兄貴に失礼な感想も無かったと思う。
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