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「ルイ様、ルイ様。こっちですよ」
「ん……?あ、わり。今行く」
ギルは相変わらず俺の事を様付けで呼ぶし、敬語も外さない。
ちなみに言うとギルは13で一応肉体的に言えば俺の方が年下だ。……この際、前世だとか聖獣とかは置いておく。
以前、友達なんだし敬語も敬称も無くていいと言ってみた事があるが、何故か答えは即答でNOだった。今の所、ギルは両方とも外す気が無いらしい。マジなんで。
その事で若干萎びれた俺に、何故か挙動不審になったギルが「これは癖みたいなものなので」とか言って来たが、俺は知っていた。お前が俺以外に敬語を使っている所なんて見た事がない。なんですぐバレる嘘なんか吐くんだ。泣くぞこらギルのばかやろー。
まだ俺たちには、見えない壁があるようだ。
閑話休題。
ギルの本名は『ギルバート・ウルズヴェルデ』と言うらしい。なんて言うか安直な感想しか言えなくて申し訳ないが、初めて聞いた時はなんか貴族っぽいなーと思った。
ただ、これは本人から聞いた訳では無く、以前俺がバルコニーで光合成をしていた時に、下の階から聞こえてきた宮の使用人達の会話から知った事だ。
ギル本人からはただの『ギル』としか名乗られていないので、俺は知らないフリして今まで通りそのまま呼んでいる。
「ルイ様、ここどうですか?綺麗だと思いますか?」
「?うん、すげえ綺麗だと思うよ」
「ふふ、そうですか」
何故か嬉しそうな顔をするギルへ何だと聞けば、庭師達が聖獣様に綺麗な庭を見せたいとか言ってここ最近張り切っていたのだと聞かされ、俺は微妙な気分にさせられた。
俺はその場にしゃがむと、ヒラヒラとフリルのような花びらをいく重にも重ねた黄色の花をじっと見つめ、暫くして細く息を吐き出した。
俺が一方的に苦手意識を持ち、避けるようになった人族が、俺の為に、綺麗な庭を見せようと張り切っていたと言う。現に今俺の視界に入る全ての草花達や、この石の敷き詰められたこの道に至るまで、個人差はあれど聖獣に見せようと庭師達が精一杯整えてくれたものなのだろう。
気付いた時には自分の口は尖り、しっぽはだらんと地面に落ちていた。
「…………」
「やっぱり……気に入りませんでしたか?」
「ちげえよ、庭はクソ綺麗」
……おっと、つい口が悪くなってしまった。
気に入らないのはこの自分の中のモヤモヤだ。二度目の記憶がトラウマにでもなっているのか、別に人間全員が悪い訳じゃいと言う事は理解しているつもりなのに、ついつい彼らに対して素っ気なく考えてしまう自分がいる。
あれか、頭ではわかっていても身体が拒否する的な。それか?それなのか?心と身体は表裏一体とかなんとか言うし。ん?あれ?…………って、あああもう、訳わからん。
こっちに来る前はむしろ優しい人達に囲まれてたものだから、余計に二度目の自分が人間に抱く感情ともじゃかって仕方がない。
はぁ……このギャップには一生振り回される気がしてならない。
「え?くそきれ……?」
「あー……死ぬ程綺麗って事だ」
「死ぬ程綺麗ですか……ふふっ、それはダンが喜びます」
相貌を崩し、年相応に嬉しそうに笑うギルを見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。
好意を向けられ、当たり前に好意が返せなくなっている自分に改めて落ち込みかけていたのに、この子が明るく笑うと『まぁ、それは追々でいいか』なんて、自分の悩みがほんの些細な事のように思える。
「ふ、はははっ……そりゃー良かったよ」
聖獣なんて名ばかりの、大した力もない自分にどれ程の価値があるのかなんて分からない。けど、こんな事でお前が笑ってくれるなら、それで良いのかもってあっさり納得できる。
俺はそれが不思議だったけど、同時に酷く心地良いと思った。
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