─第二章─約束をしよう

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* * * 「綺麗ですね」 「…………」  隣で主に俺の頭……耳のあたりをじっと見てそう呟いてくるギルに、俺はしっぽの先端を『はいはい』と言わんばかりにパタパタと振るだけに留め、とりあえず無視して読んでいた本のページを捲る。今ちょっと忙しい。  今日はギルが元々使っていた部屋に来ている。  ここは幼少期からギルが集めた本が沢山あるのだとかで、何度か暇潰しにお邪魔しているのだが、これがまた軽い小説っぽいものが多く皇族の部屋にありがちな小難しい本もあまりないので次々と手が伸びる。  そんな俺が今読んでいる本は、表紙も所々色が変わって古いものなのがよく分かるもの。  内容は────…  ある少年の村に日照りが続き、ほとんど自給自足で生活をしていた村人達はみるみる飢えてしまった。高齢者の多い村の中で、まだ元気があった少年は雨乞いをするべく、昔から雪豹の聖獣が住処にしていると言い伝えられてきた豊かな山を訪ねに行く事に。  やっとの思いで山に着くも、初めは侵入者として追い出される少年。しかし、いつまでも諦めない幼い少年に雪豹が感心し、話を聞いてもらえる事になった。  少年は事情を話し、どうか助けて欲しいと訴えた。少年は心優しい村人たちを救う為に、何日もかけてここへ一人で来たのだという。聖獣は気まぐれに少年の村と『約束』してやる事にした。  雪豹の聖獣は山と契約を交わしていた。聖獣がこの山を住処にするかわり、外敵から守り、晴れを呼び、雨を降らせ、山を豊かにするという契約だ。  約束とは気紛れなもので、直ぐに無かった事にできる程度の軽いもの。しかしそれでも、人の身で代償も無く聖獣に願いを叶えて貰えるというのは畏れ多い事だった。  その後、聖獣に気に入られた少年は加護を与えられて村に帰ったが、彼は村の改革に人生を注いで寿命を全うし、当時の村は今や大きな街になっている。  …────のだとか。  この本を読む分に、人間は正しく聖獣を理解しているようだ。  内容の通り、約束とは契約の軽いもの。それこそ気紛れなもので、気に入らなければ後から「やっぱやーめた」と、一方的に解消出来るようなものだ。  それでも、畏れ多い事だとか言っちゃうあたり、聖獣の扱いって……と思わんでもない。が、雪豹聖獣の場合だと納得せざるを得ない気もする。  なんせ、サイズは違えど聖獣神と同じ姿形だからな。そりゃ人間からしたらそういう扱いになるのも仕方ない事なのだろう。
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