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他にも、この部屋には聖獣関連の本がわんさかある。
題名が『皇子に運命の闇豹を』とかいうこの世界じゃ珍しくもない同性間での恋愛小説や、『光猫姫と白狼』なんていう魔獣と聖獣の種族を超えたラブロマンスという名のフィクション。
皇子と闇豹の話なんかその辺の貴腐人が喜びそうだし、後者なんて光猫に姫なんか居ないうえに、白狼は魔獣である黒狼の変異種だから本来は過去その一個体しか存在しないはずなのだが。世界が変わっても娯楽本は好まれるものらしい。俺も好き。
中にはこれ実話じゃね?なんてものもあるけど、どれもこれも何処かしらに聖獣が出てくるのは変わらなかった。それだけ聖獣はこの世界の住人にとって重要なものなのだろう。
────そしてそれは多分、ギルにとっても。
俺は足の上で本を開いたまま、ぼうっと思考を深めていった。
ギルはよく、俺の色を綺麗だと言う。
青みがかった白っぽい銀色の毛が生えた耳やしっぽは雪豹の……聖獣の証だ。この無駄にキラキラしい青紫の瞳も、確かに俺が雪豹の聖獣であると証明するもの。
この部屋にあるのは、本当に聖獣の本ばかりだ。
ギルは聖獣が好きなんだろうか。それとも、単にこの世界の人間が好む本としてはこれが普通なのか。
視界に入る本の端に乗せられた指の爪はやや細く、若干尖りけがあるがやはり人間のもの。しかしこれもひとたび臨戦態勢になれば、にょきっと伸びてはスパスパと機嫌の良い包丁の如く物を裂ける刃物になる。
確かギルはこの爪の事も半透明で綺麗だって言ってたっけ。言われてみれば、色が薄いからか下の肉が透けてピンクに見えるし可愛い気も……しなくは無い、かもしれない。あれかな、肉球扱い。いや、ちがうか。
……まあ、何にしても、爪が伸びて無ければの話である。
?あれ、ああ……でも、そういえばギルって俺の顔も褒めてくるんだよな。
正直、髪色や瞳の色こそ、もし二度目の記憶や三度目である今世の記憶がすっぽ抜けていれば「!?」って反応になるであろう程の変わりようだが、如何せん顔は前世の俺のまま。まじか転生しても同じ顔で生きてたのか、と気付いた時の衝撃は未だに忘れられない。
この分では俺が記憶にある以外で転生していたとしても、似たり寄ったりの顔で生きていたかもしれない。……なんかそれはあんまり転生した感ないだろうな、と思った。
今の自分の姿は正直、俺の面影しか感じない。
だから『いやそれ結局俺じゃね』とか『ただの色違いの俺じゃん』なんて、思っちゃうのも仕方がないと言うものだろう。
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