─第二章─約束をしよう

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* * *  じーっと、それはもう穴があくんじゃないかって程、俺はその人を見ていた。  それはギルが殊更大事にしている護衛の1人。聞けば、母方の従兄弟らしい。  この人は俺は初対面でギルの……彼の主人の首を掻っ切ろうとした奴なのに、ギルが席を外した時も穏やかな顔でこっちを見てきたり、事ある毎に気を使ってくる変わった人だ。 「…………そっちの人、一緒に食わないの?こっち、座ったら」 「え……?いえ、私は……」 「けどアンタ朝からなんも食ってないよな」  困った顔をしていつまでも座らない若い騎士に、顔には出さなかったが俺の機嫌は徐々に下がりだしていた。……だからだろう。無意識にタシン、タシン、と打ち付けられるしっぽが勝手に俺の不機嫌を訴えて、余計に若い騎士を困らせている。  が、止まらないんだよなぁ……このしっぽ。  タンタン、と強かに打ち付けられるしっぽを見兼ねたのか、隣に座って居たギルが途中でそのしっぽを受け止め優しく掴むと、打ち付けられたそこを労わるようにスルスルと親指だけで淡く撫でてくる。うあー、ギルそれきもちー。もっとやってー。  俺のしっぽ相変わらずチョロいらしく、それだけで気分は上がっていき、気付いたらギルの腕にまで長いしっぽをくるりくるりと絡めていた。  挙句の果てにくるるるる、と鳥みたいな音が喉から鳴り出してご機嫌になった俺を見て殊更嬉しそうに笑うギルは、今度は若い護衛に目を向けた。 「クラーク、お前も座って一緒に食べよう」 「殿下……しかし、」 「ちゃんとした作法も習っていない僕相手に礼儀なんて今更だ。 ルイ様も良いと言ってるし、遠慮なく座れクラーク」  「護衛なら代わりを呼ぼう」と言って自分で立ち上がろうとするギルに、クラークと呼ばれた男は「それなら私が」と仕方なさそうに一礼すると一度部屋を出て、直ぐにもう1人の若い男を連れて戻ってくると、今度はちゃんと席に座った。代わりの護衛として入ってきた男は扉横に待機だ。  じっと見ていたからか目が合って、淡く微笑まれて……うわぁ、なんだよ、騎士って何奴も此奴もイケメンじゃねえとなれない決まりでもあるのか、とか思ってしまった。 「……視線慣れした経緯が他人からの好意とか、羨ましい限りだよなぁ」  こっちは好奇の目だぞ。まさに珍獣を見る目。いや間違ってないから別にいいけどさ。 「ルイ様……?」 「なんでもねえ」 「?それならいいんですが……」  不思議そうに首を傾げ、手触りの良さそうなダークブラウンの髪をさらりと揺らすギル。ていうかギル、お前もだよな。  聞けば、ギルの兄貴……皇太子も例に漏れず顔が良いらしい。まあでも、この国って血筋だけじゃなく見目にも厳しいって聞くし……それを先導する皇王が選ぶ奥さんなんて必然的に美人になるだろうなって思うと、もちろん生まれてくる皇子や皇女も美形になるわけで。  それが生まれと容姿を重んじる思想もそのままに何代も続けばな……そりゃ、あっという間に漏れなく身内全員美形一家になるだろうさ。  ……どうやらこの国の皇子は、ほぼ自動的にイケメンに生まれる宿命にあるらしい。  
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