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「……まあ、そうだな」
俺が肯定すると、やっぱり傷付いたような顔をするギルに胸が傷んだ。
だけど、それでも俺は、ギルの為だけにずっとここにいる訳にはいかない。
雪豹の聖獣は気に入った場所と契約し、運命を共にすると決めた場所とは盟約を交わす。それが聖獣の義務で、俺が俺としてここに存在する理由だから。
俺はこの国を、この場所を気に入って居ない。欲に塗れた人間の蔓延るここを決して愛せない。
だから、いつかは探しに行かなければならない。
俺が盟約を交わしたいと思えるその場所を見つけるために。
「そう、ですよね。……なら、やっぱりせめてそれまで────」
「あのさ」
「? え、はい」
途中で言葉を遮った俺に、今度はギルが目を丸くした。相変わらず顔色悪く眉を下げていたギルに近づき、俺はその手へ慰めるようにしっぽを絡めた。
「お前は?」
「え?」
俺の問いかけ意味がわからず困惑するギルに、あやべ、と言葉が足りなかった事を悟り、丁寧に言い直す。
「お前は、いつまでここにいるつもりだ?」
「っ、」
「ずっとか?」
ギルは俺の問いかけにますます目を見開いて息を詰めた。多分、考えた事も無かったんだろう。
ギルは亡くなった母親を愛している。
だから、その母親を思い慕う人間たちが作ったここが好きだし、市井の人々を愛し愛された母親が言い残した『貴族の掃除は頼んだ』というその力強い言葉に従った。
ギルも母親と同じように市井の人間を慕い、同じように慕われるようになったと言う。
母親の言う通り貴族を洗い、ひっそりと持ち込まれる平民達からの助けを求める声を聞き、穢いものは掃除していく。
その結果、喧しい貴族たちの蔑みが更に酷くなろうとギルはずっと耐えて来た。
────ギルはきっと、この国で誰よりも気高い。
でも、だからこそ。
「お前、死ぬまでここで生きるのか?」
俺個人としては、それが何となく……ちょっとだけ、嫌だなあと思っていた。
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