─第二章─約束をしよう

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 さて。  俺は掃除が終わってピッカピカになった部屋のソファへ腰掛け、正面に座っているギルをキリッと見つめた。気分は先生だ。いや無理か、うん俺頭良くないから無理だな。  ……仕方ない、年上のお兄ちゃんくらいにしておくか。 「ギル」 「はい」 「あー……まず先に言わせてほしいっていうか……謝らせてほしい事がある」 「謝る……?」  俺がじっと見つめれば、構わないと言った意味だろうか、ひとつ頷きが返ってきたのでそのまま続ける。言っておかなければいけない事があるのだ。 「自信満々に教えるーとか言っちゃった手前、申し訳ねえけど……今の俺は見ての通り聖獣とは言え幼体だ。正直、現段階じゃ大した魔法も使えないから、初級魔法くらいしか見せてやれない」  氷魔法ならウッハウハで使えるんだけど……人間は使えない属性って分かってるものを教えても仕方がないからな。  実は通常の魔法も使えるには使えるんだが…………その、俺って制御がヘッタクソらしくて。死んでから聖獣神にも上で言われたけど、今のところ中級以上を使おうとすると、火力が馬鹿みたいに暴走しかねない状態らしいのだ。初級ならただ優しーく発動させればそれっぽいのが出来るから、何とか見せてやれるんだけど。 「……まじごめんな」  不器用な先生(?)で……。  俺が軽く落ち込むとしっぽがダラリと垂れてしまい、ギルが慌てて慰めてくれた。ホントごめんな、気使わせて。  よーし。お兄ちゃん(?)、しっかりするからな。  慰めついでに魔法に関する今までの事を語ってくれたギル曰く、彼の護衛騎士たちは平民出身者が多い。それも魔力も少なく制御も下手な者ばかりで、初級魔法と呼べるものすら使える人間がおらず、剣術は教えて貰えたが魔法は教えてもらえる事が叶わなかったらしい。  流石に貴族と比べると質は劣るが、普通に魔法を使える平民はいるし決して少なくもないらしい。騎士を目指すような人間なら尚更。しかし、ギルの周りには面白いくらいに魔法がド下手な騎士たちで固められている。  単に『平民の血が混じった皇子には、平民の騎士がお似合いだ』とか、そういう嫌味を含んだものかとも考えられるが、どうやらギル曰くそれだけでは無いらしい。 「確かに平民と混じれば皇族の血(適性能力)は劣化します。が……」  いくら貴族に平民の血が混じると適性が著しく下がるとは言え、ギルは現皇王の血を継ぐ正真正銘の皇族だ。魔法を教えて才能が開花したら厄介だとでも思われているようで、ギルの宮で働く人間は余すこと無く“魔法が下手”以下の人間で統一されているのだとか。  ギルが一度魔法を教えてくれる人を探そうと、宮の人間を片っ端から当たってみた事もあったそうだが、見事に全滅だったらしい。  ギルは皇子だが、立ち振る舞いから国の事、魔法はもちろん勉強も教えられていないと言う。  何も教えられていないギルが突然断れないパーティーやお茶会に招待されればどうなるかなど想像に容易い。本人は「彼らはどうしても僕を貶めたいようですからね」なんて呆れたように肩を竦めている。  全く、ギルの方が余程大人だ。  しかし、ギルはまだ十三だ。あっちで言えば中学校入りたてくらいだろうか。それがこんな、既に達観しているなんて。そうなった原因など、考えるまでも無い。元々か、そうならざるを得なかったのかは分からない……それでも、ふつふつと怒りは込み上げてくるものだ。  そんな俺に気付いたのか、苦笑したギルに頭を撫でられて宥められれば、それは音もなく消えていったのだが。だか、納得はいっていない。ああ、やっぱりギルは連れ出したい。最終的には本人に任せるけどさ。  あーぁ……嫌だなぁ、ギルを置いていくのは。
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