─第一章─初めまして、俺のハニーチョコレート

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 それも、断片的に流れ込んで来た記憶的に……俺、どうやら人生三回目らしい。  覚えている中で一番古く馴染みがあるのは、現代日本で暮らしたちょっとお茶目な男子高校生としての人生。それが一度目。ちなみにいちばん長い。  そして次が、今と同じ聖獣としての人せ……獣生(じゅうせい)? まぁ、人生でいいか。二度目がそれだ。  ────で、だ。  次はいよいよ三度目の人生の話になるのだが、俺としてはこれを三度目と括っていいのか実はちょっと分からない。  というのも、今のところ俺は二度目の人生とほぼ同じ道を辿っているようなのだ。  同じ世界、同じ場所、同じ雪豹になって、同じ人間に捕まって売られ、同じ人間の貴族に()われている。アンハッピーセット再びである。  頭からはふわふわの豹耳、尾骶骨辺りからはしなやかな動きを見せる長い猫のようなしっぽ。  しっぽはちょっと猫よりボリュームあるし、耳に淡く入っている柄は見事に豹柄だ。  来世は『金持ちの飼い猫になりたい』と思っていたので、ある意味夢は叶ったといえる。  しかし……  あーあ、こんな可愛い事になっちゃってまあ。  感情に伴ってピクピクと動く耳や揺れるしっぽに、こんなの兄貴と安藤が見たらなんて言うかなー、なんて呑気に考えてみるが現状は変わらない訳で。  てか今、あっちってどうなってんだ……?  まあ、考えても仕方がないだろう。それこそ今はお互いが存在する世界すら違うのだ。どうやったって俺には知る術がない。  ……んで、これアレだろ。隷属の首輪だろ?  俺は自分の首に付けられた硬く重厚な首輪に意識を向けた。  俺を買ったのはこの貴族のお嬢さん……の、父親だ。  見るからに金の亡者と言った風貌で、聖獣(おれ)する事への執着心がそれはもう異常だ。絶対してやんない。  しかし、記憶が戻って以来、俺を買ったらしいこの貴族がどれだけヤバい事をしているのかよくわかる。聖獣に隷属の首輪つけるとか、マジでとんでもないなこの人間達。  厳密にはオークション会場の人間が首輪をつけたのだが、そのあと主登録して俺を隷属させているわけだから同罪だろう。  あ"ー……にしても苦しいな。  この苦しさはよく覚えている。  聖獣としての急速な成長に対し、ドラゴンをも屈服させる無駄に強力なこの首輪が反発して俺の中で大暴れしているのだ。多分、急に俺の前世の記憶が戻ったのもそのショックのせいじゃないかと思う。  なんせこの反発が、まあかーなりキツイんだなこれが。  それはもう幼少期や二度目の人生通り越して、日本人としての前前世まで思い出しちゃうくらいには。
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