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俺は男子高校生として十八年間生きてきた記憶を思い出したことで、この酷な現状も幼い子供の精神よりはかなり冷静に受け止められていた。
しかし、良いのか悪いのか、俺は何故か聖獣としての一つ前の人生も思い出してしまった。
いや、そもそも俺としては……
『え? 転生って普通別の人間になるんじゃないの?』
『なんで全く同じ状況? 怖いんだけど』
『つーかマジで転生ってどうなってんの? 異世界ってアリ?』
等々、それはもう色々と思う所がないでもなかった訳だが、聖獣としての十年間の記憶もざっくりと……それこそ断片的にとは言え戻ってくれたおかげで、この摩訶不思議な世界においてそれは考えても仕方のない事だと無理やり割り切ることができた。
────そう、十年間だ。
俺はこの後、思ったよりもすぐに死ぬ。
俺は二度目の人生も、大人になりきれずに終わっている。
この後、俺は人間たちの元から逃げ出せるのだが、今思えば二度目の俺が逃げ出せたのはこの首輪の主登録が解除されたからだ。そうでなければ、命令されて強制的に連れ戻されていたはず。
けど、それは決して良い事じゃなくて……
主はいないのにつけられたままの首輪、命令される事はなくとも苦痛だけはずっと続いた。
時が経てば成長するにつれ、当然聖獣としての力は溢れる。しかし、溢れれば溢れるほど、それが首輪の破壊行為として誤作動し、苦痛が内で暴れ回った。
何故こんなにも苦しいのか、何故何をしても首輪が壊れないのか、訳も分からないまま自分の力に蝕まれ続けた俺は馬鹿みたいに衰弱していくしか無かった。
二・三度目の俺には、聖獣としてその地に現れた時から五つになるまで庇護者がいた。血の繋がりこそ無かったが、家族のように慕っていた黒狼の両親とたくさんの兄弟達だ。
黒狼はそこを住処と決めると、群れの長が『ここを住処とするかわり、生涯を捧げここを守護する』と言った具合に契約をする。
そうしてその地に縛られる事になった長を中心に、魔獣の群れはその場所を守り続ける。
長が死ねば、次の長が、それも死ねばその次が契約を交わす。
そうしてその地に留まり、守っていく。
二・三度目の俺が父と慕った黒狼は長だった。俺はその地へ行かなければ、死ぬまで会えないのだ。
だから幼い日の記憶を叩き起して、必死に森へ走った。
けど、黒狼の元へ辿り着いた頃には、身体の内も外も既にズタズタで手遅れだった。せめて死ぬ前に見る顔は彼らがいいと、隷属の首輪の外し方も分からないまま、ただただ魔法を酷使し駆け続けた結果だった。
結局、辿り着いた後の俺は死に、 天を住処とする聖獣神の元へ還った。互いの種族の性質上、離れざるを得なくなってからも家族のように想っていた黒狼達に看取られて。
まあ、その後に精神世界……? とか言ってたっけ。そこで聖獣神と話した事を今の俺が時間をかけつつも着々と思い出しているからこそ、これだけこの世界の事がわかってる訳だが。
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