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「神崎佑香ちゃん、俺と試しに付き合ってみない?」
同じクラスの親友、恵里香とふたりで、放課後に立ち寄った駅前のカフェ。
その男の子は遠慮なく私の隣に座ると、目の前に座る恵里香にも聞こえるように呟いた。
突然の出来事に、恵里香も驚いている。
同じ高校の制服を着ているけれど、その男の子の顔にはまったく見覚えはなかった。
人間違い? と思ったけれど、私の名前を知っているということは、同じ学年なのだろうか。
「私、あなたのこと、知らないし」
「知らないから、付き合わないってこと?」
「当たり前でしょ」
彼から離れるように立ち上がると、ぐいっと右手首を掴まれた。
「5分後、君は俺のことを誰よりも理解してると思うよ。だから、付き合おう。決まり」
「決まりって、私、OKしてないから」
「だめ、佑香ちゃんには拒否権なしだから。俺は2年B組、桜木潤。食べることと音楽が好き。でも一番好きなのは、神崎佑香ちゃん」
「嘘、私と同じクラスなの?」
恵里香の顔を見ると、恵里香もわからないみたいで、不思議そうに首を傾げている。
桜木潤なんて名前、同じクラスどころか、同じ学年にだって、聞き覚えがない。クラスメイトの男の子の顔をひとりずつ思い浮かべたけれど、心当たりはなかった。
「同じクラスだよ、たった5分後からね」
「え?」
「それって、桜木くん、転入生ってこと?」
恵里香が納得したように桜木くんに質問をする。
「うん、まぁ一応転入生かな」
「そうなんだ。じゃ、私お邪魔しちゃいけないし、先に帰るね」
「ちょっ、恵里香、行かないでってば」
恵里香は私たちに手を振ると、困る私を置いて、カフェを出て行ってしまった。
「俺、佑香ちゃんの理想のタイプじゃない?」
パッと立ち上がった桜木くんは、私の目の前でくるりと一周してみせた。
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