3人が本棚に入れています
本棚に追加
確かに、好みのタイプであることは否定できない。身長も私より15センチは高そうだ。
髪の毛もサラサラ。校則でギリギリセーフくらいの程よいこげ茶色の髪。つい触りたくなってしまう。
しかも、声まで私好み。ちょっと低めのハスキーボイス。さっきから、何度も名前を呼ばれて、正直なところ、ドキドキが抑えられなかった。まるで、私の妄想の中から飛び出てきたみたいに理想通りだ。
「だからって、まだ私、桜木くんのこと、よく知らないから」
いくら外見が理想通りだって、性格が合うとは限らない。
「大丈夫。だって佑香ちゃん、いつも誰とでも簡単に付き合っちゃうでしょ、お試しで」
桜木くんは、ニコニコと笑みを浮かべていた。
「そんなことない、私、そんなに好きでもない人と、お試しで付き合ったことなんて、一度もないから」
聞き捨てならない桜木くんの言葉に、私は少し声を荒げた。
「嘘吐いたらダメだよ」
桜木くんは、自分の持っていたスマホの画面を見せてきた。
「え、なに?」
「いつもやってるでしょ、この恋愛アプリゲーム。ちょっと開いてみて」
桜木くんのスマホには、私が今ハマっている恋愛系のアプリゲームが入っていた。
自分のスマホで、そのアプリゲームを立ち上げると、一件のメッセージが届いているのに気づいた。
「俺と試しに付き合ってみない?」
そのメッセージを開くと、目の前にいる桜木くんにそっくりのアバターが、ゲームの中の私の耳元で囁いていた。
「え? どういうこと?」
「さぁ、でもゲームの中の佑香ちゃんは、イエスって言ってるよ」
桜木くんの言う通り、ゲームの中の私はどうやらまたお試し恋愛を始めるみたいだった。
「え、ちょっと、どういうこと?」
「そういうこと。この間、転入の手続きに来たらさ、ゲーム内で可愛いなと思ってた女の子にそっくりな佑香ちゃんを見かけたんだ。だから、ゲームでお試し恋愛するように、リアルな世界でも、俺たちお試し恋愛しようよ」
桜木くんは、そう言うと、ゲームの中のふたりと同じように、カフェラテを注文した。
fin
最初のコメントを投稿しよう!