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「もう詰んでるんだってば」
下げた目線の先にある将棋盤。
その盤面では、今まさに真央の王が止めを刺されんとしていた。
そう、誰の目にも明らかな詰みの状態がそこにはあるのだ。
認めようとしない真央は、さっきから幾度となく待ったをかけ、やり直しを求めてきていた。
愛しい恋人ではあるから、彼女が言うには九回、その申し出を受けた。
だが、愛しいからこそ厳しく出ることも大切だ。
「普通なら何手か前に投了だよ」
「嘘」
「嘘じゃないよ。さすがに気付いてるんだろ?」
「……」
「もう高校生なんだしさ、大人になろうよ」
「……参りました」
こうして、僕はようやく解放感を味わうことができた。
「いきなり挑んでくるから、どれほどの腕前かと思えば。めちゃくちゃ弱いね」
「まだ、始めたてだからだもん」
「確かに将棋始めてたなんて知らなかったけど。でもなんで?」
「だって、君が将棋好きなんだもん。一緒にやりたいと思うでしょ」
上目遣いでそんなこと言われたら、嬉しい以外にどう感じろと。
彼女がこの手のゲームを好むタイプではない、というのも知っているからなおさらだ。
「ルール覚えてくれたんだね」
「……うん」
「頑張ってくれてありがとう」
「じゃあ、帰りにパフェ奢れ」
「もちろん」
安いものだ、と思う。
僕は手早く机の上の駒と盤を片付け、彼女とともに教室を後にした。
将棋デートのちパフェデート。
この放課後の終わりはまだまだ来ない。
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