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知りたくなかった
麦と出会って、スイカを食べたあの日から幾度となく季節は巡っていった。何度も麦と見た紅葉。今年の紅葉だけは、麦の様子が違っていた。
「俺、好きな子ができたんだ」
「えっ、もう受験の時期来ちゃうのに何言ってるの?」
どきりっと胸の奥で強く打ち付けた心臓を、押さえこむ。紅葉のせいで、麦の頬が赤く染まって見えた。
「応援してくれるだろ? 俺ら幼馴染であり親友なんだから」
親友という言葉に胸がちくちくと痛みながら鼓動を早める。私は、ヒーローの君に恋していたんだ。今さら、気づいてしまった。
傷つく胸の中とは裏腹に、口からは嘘つき言葉がすらすらと溢れ出る。
「うん、がんばって! 麦のこと、応援してるよ」
「さくらに応援してもらえたら、上手くいく気がする。ありがとう、今度告白してくるから」
ヒーローにはヒロインが付き物。当たり前なのに、嬉しそうにはにかむ君の顔を見て、私は内臓を吐き出してしまいそうだった。
♡♡♡
麦は、最初から私のヒーローだった。昔から口下手でうまく言葉にできない、いわゆる人見知りな私。
はじめての転校で緊張のまま、話しかけてくれるクラスメイト達にうまく返事をすることができなかった。帰り道を一人で俯く私の手を取って「いいとこ教えてやる」なんて言いながら、スイカを振り回した麦。
声を掛けてくれた麦は、キラキラ輝いて私にはカッコいいヒーローに見えたんだ。
「これ、母さんが持たせてくれたスイカ。甘くて美味いから一緒に食べよう」
「いいの?」
「一緒に食べたら、俺たちはもう友達だ!」
ほっぺたに赤い雫を付けながら笑うヒーローに、釣られて笑う。自然と返事ができている私がいた。
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