雨が止んだら

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雨が止んだら

「束の間の日差し、か……」  散った低い雲に重なるように広がる叢雲の隙間から日差しが降り注ぎ、岩肌を照らす。  巨大な岩と太い木々が延々と続く険しい山脈の真ん中、人が到底訪れることの出来ないその場所は年中雨が降り注ぐ。  雨は木々の葉を伝い、窪みに滑り込み、幾多もの細い和流となる。  鋭い流れのそれが幾つも合流して本流となり、やがて切り立った崖から空中へと投げ出される。  麓に降り注ぐまでの高さは二千メルトルを超える。その滝に滝壺は存在せず、投げ出された流れは風に煽られ再び雨となり麓の森に降り注ぐ。  その様を眺め続けた一匹の竜は、三年ぶりに止んだ雨にゆっくりと天を仰ぐ。  盛り上がった巨大な樹と岩に身体が同化しており、体の一部からは苔が生え、その場から長い時間を動かぬ老竜。  長い首を持ち上げるのは久しく、動いた衝撃でそこから苔がボロボロと零れ落ちる。  次第に限定的に山や森を照らしていた日差しは、やがて見渡す限りを照らし出していく。霧が晴れ、地平線の彼方まで幾重にも連なる山脈と森が眼下に広がった。  流れ落ちる水音、木の葉が擦れる音、風が崖に沿って舞い上がる音、それ以外は無音のこの場所に、一つだけ意図的に生み出された音が加わる。  羽音である。  時折巨大で、猛禽類に似た、美しいブルーの羽根を持つ魔獣が現れることがある。  しかしそれは恋の季節に限った話であり、それはもう暫く後の話だ。  ともすれば、この羽音の主はただ一人。 「じっちゃん! じっちゃん! じっちゃん!」
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