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操縦室内、および後方機関室内――
「後席、機関の状態を知らせい!……調子はどうだ?……爺……」
「前席、焔玉機関出力安定、魂魄回路正常起動、各部関節の油圧駆動系、その他もろもろ異常なし……と、言いたいところですが……」
簡易な防具に身を固め、貴族出身の割には野性味のあるジルフリードが座す操縦席の真後ろ、機関室で機器の操作をしつつ計器を見る爺――こちらは白い髭を蓄えた小柄な老人である――こと機関士ウィムが若様の問いに口を濁す。
「……どこか調子が悪いのか?」
「いえ、特段何処と云うわけでなく、機体全部が儂と同じでガタが来ておりますからのぅ……あまり無理はさせたくはないのですが……」
「そうはいっても、これから戦いがあるのだ!
ラーラも俺が手柄を立てるのを期待しているし、家名を汚さぬためにもここで活躍しなければ……」
ラーラとはソル・クラーウの足元で声援らしき叫びをあげているメイド――侍女のことであろう。
西方にて流行り出したゴシック風の使用人ドレスにフリルのついたエプロン、大きめのヘッドドレスで茶色の長い髪を纏める姿は、白い肌と整ってはいるが目と耳を隠すほどの前髪が相まってこの中原ではとても目立つ。
その姿を機関室の受像機から垣間見たウィム爺はため息をついた。
「あれは『手柄を立てて報奨金をせしめてついでに仕官しろ』と云っているだけでございます……」
「それは爺の意訳じゃないのか?」
「……前席、隊長殿が招集をかけております……急がねば」
呆れたジルフリードの問いに答えず、前進を急き立てるウィム爺……
その言葉を受け、若い主人は再び操縦に専念する。
「了解、後席……接続を歩行、前進に切り替え……微速前進、ソル・クラーウ、出る!」
陽光の下、姿を露わにした鉄甲騎ソル・クラーウ……
紅赤色の装甲と大きな冠を模した兜、装飾を兼ねた旅装と思われる布地を要所に巻き付けた、彩り豊かな機械の騎士……
背中に背負う機関室と箱のような水溶器、その脇に大剣を吊るし、左腕に中型の盾を構えて力強く前進する。
機関の唸る音と関節の駆動音、そして力強い地響きとともに……
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