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若者がどんどん都心に出て人口が減っている自分の生まれ育った市。地元愛があるので橋本は市役所に就職したが市役所の仕事は思いのほか多く毎日バタバタしている。
そんな中経済効果を見込んでいろいろなイベントを開催する他の市を参考に、ここでも何かできないかと会議が行われた。会議の中である島の話題となった。
海沿いにある市のすぐ近くに無人島と思われる島が一つぽつんとある。海岸からもその姿を確認することができるくらいには距離が近い。
調べてみたがかなり高齢の人が所有者らしい。
この島を使って何か宝探しとか、今流行のキャンプなどのイベントができないかという話で盛り上がってまとまった。まずはその島をそういった場所に提供してもらえないかという交渉が必要なのだが、橋本が勢いよく手を挙げた。
「俺行きます!」
選手宣誓のように姿勢を正して勢い良く立ち上がる橋本を見て、課長も周囲も笑う。
「お前ならそう言うと思ったよ、こういうの好きそうだもんな。暴走するのを止めるのは工藤、頼むわ」
橋本の同期である工藤は大きくうなずいた。
「分りました。面白そうですし僕もちょっと興味があります。町おこしになればシャッター街も改善できそうですね、家賃を抑えた店舗貸し出しとか」
「キャンプとかやるならテイクアウト店がぴったりだな!」
二人は同期ということもあってとても仲が良い。何か仕事をするときは大体この二人はセットである。
何とか町おこしをしたいと日ごろから考えていた橋本は今回のことにかなりやる気があるようだ。相手が高齢ということもあって、高級羊羹を買い鼻息荒く交渉に行ったのだが。
「ぜひお願いします」
とてもあっさり話がまとまった。交渉相手である桐谷と言う老人は突然やってきた市役所の二人をうれしそうにもてなした。特に何か条件を出すでもなく二つ返事でオーケーをしたのだ。
「まずは島の様子を見てもらいたいからお二人に一緒に島に来てほしい。手入れをしていないから雑草が生え放題だがね」
「分りました。よろしくお願いします」
あっという間に話がまとまり島に下見に行く日も全て決めて二人は桐谷の家を後にした。
「結構話が早くまとまってよかったね」
頑固な人だったらどうしようと思っていた工藤は安心したようにそう言ったが、橋本は険しい表情をしている。
「あやしすぎだろ、あのじいさん」
「え、何が?」
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