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橋本が痛みをこらえて目を凝らしてみると、工藤が石板の上に踏みつけられる形で寝転がっている。高齢であるはずの桐谷が自分を投げ飛ばし工藤を踏みつけているというのがようやく理解できた。とても老人の力ではない。
「いやあ、間に合ってよかった」
桐谷は本当に嬉しそうに笑っている。何のことかと思っていると突然桐谷がばったりと倒れた。そしてゆっくりと工藤が起き上がる。転がった懐中電灯に照らされたその顔は、自分の知っている工藤の笑顔ではない。ニタニタしているその顔は不気味だ。
「……どちら様?」
「はあ? 俺は工藤だろ」
「てめえが工藤じゃないのはチンパンジーでもわかるわ。さらに言うならもしかしなくても桐谷だろ」
わずかに声のトーンを下げてそう言うと、ソレはケラケラと笑う。
「桐谷でもないねえ、馬鹿が。桐谷はとっくに死んでるよ、俺に体をとられて気が狂って消えた」
「要するに何? 桐谷って人は実在したけど、わけのわからんお前に体乗っ取られたってこと?」
「体を交換していかないと劣化していくからな」
――とりあえずこれの正体が何なのかは一旦置いといて。こいつが体を交換するには石板に触れる必要があるのはわかった。どうせ大昔なんかやらかして石板に封印されたとか、そんな感じなんだろうな。
物心ついた時から漫画やゲームをたしなんできた橋本はこんなことでは動じない。それよりも切羽詰まっているのは工藤だ。こいつに体を乗っ取られるといずれ消えてしまうということになる。
という事は、今はまだ工藤の意識が元気な状態だ。なんとかするなら今しかない。
「それはわかったけどさ。なんで俺にしなかったわけ?」
「なに?」
「俺の体優良物件だよ。筋トレしてるから鏡の前でうっとりできるし、フットワーク軽いから知り合いも多い。他の体選び放題なんだけど」
「仲間を助けるために自分の体に移れと言いたいのか? お優しいことだ」
封印されていたものは鼻で笑う。しかし橋本も同じように鼻で笑った。
「そんなに病弱なそいつの体にいたいんだったら別に無理にとは言わないけど」
「なんだと」
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