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「記憶見れないの? そいつ生まれつき難病抱えてて、胃は半分ないし腎臓も一つない。心臓に負担がかかると死ぬかもしれないから激しい運動もできない。月に一回病院に行ってるらしいけど、この間の結果はそんなに良くなかったって言ってたな。車の運転もドクターストップ、移動が超不便らしいよ。この辺車ないと移動手段ないからな」
橋本の言葉に目の前のものは黙り込んだ。どうやら記憶を探っているらしく橋本の言葉が真実だとわかったらしい、小さく舌打ちをした。
工藤の病は治らないことがわかっている。度重なる手術の結果かろうじて普通の生活ができるが、運動が制限され食事制限も厳しい。飲まなければいけない薬の量も多く、薬の副作用で体にいろいろな影響も出ている。子供の頃は二十歳までは生きられないだろうと言われていたらしい。
「こっちの方がハッピーに過ごせると思うんだけど。頼むよ、俺の友達返してくれよ」
必死にそう言えば相手はくくっと笑った。
「工藤が慌てているぞ、そんなことをするなと。美しき友情だな、反吐が出る」
お前友達いなかっただろ、という言葉を飲み込んで相手の反応を待つ。
「確かにこんな体では長持ちしない。お前は頭が悪そうだが他の体に移るまでのつなぎとしてはちょうど良さそうだ」
そう言うと封印されていたものは軽々と橋本を持ち上げる。そして後頭部を掴みにすると勢いよく石板に叩きつけた。
「いってえな! ぼけ!」
「黙れ」
橋本の体にドス黒い何かが入り込んでくるのが分かった。全身に虫が這い回るような不快感、それが数秒続いたかと思うと意識が遠のいた。
細い糸で何重にもぐるぐる巻きにされていたような感覚から解放された工藤は、はっとして周囲を見渡す。目の前にはゆっくりと起き上がる橋本……いや、自分の体を乗っ取っていたアイツがいた。
そいつは肩をぐるぐると回して居心地の良い体を手に入れたと上機嫌のようだ。
「さて、いろいろ見聞きしているお前には消えてもらうか」
「消えてもらうも何も、職場に今日ここに来ること言ってるんだから僕だけいなくなって橋本がピンピンしてたら疑われるのお前だろ」
「そんなもの」
「失踪すればどうにかなるって? そしたらこの島は市か県の所有となる。体の入れ替えは石板に触れる必要があるんだったら、お前は定期的にここに来なきゃいけない。今まで石板を持ち運んでないなら運び出せない理由があるんだろうからな。島に来て他の人に見つかったら騒がれるに決まってるだろ。頭悪いな」
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