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「できた! 新曲! ちょっと駆、来てよ」
「わかった」
キリのいいところで俺は姉ちゃんの部屋に向かう。姉ちゃんの部屋はごちゃっとしている。いつものことだ。掃除をしないように言われているから、ごちゃごちゃのままだ。
「これなんだけど」
DTMとイラスト制作、画像編集と動画編集ソフトが一緒に開かれている。できた動画を再生する。姉ちゃんはいつもこうやって、誰よりも先に弟の俺に動画を見せてくれるのだ。
「お」
和風な感じだ、と思った。イラストは二人の少年少女が和服で舞を舞っていて、使われている楽器は日本のものが多い。三味線、和太鼓、琴。でも、その雰囲気は春の桜のものではない。むしろ、秋の台風のような……。
曲が終わって、姉ちゃんが口を開く。
「これね、タイトルは『雷撃』っていうの。雷をモチーフにしたの」
「なるほど。だからこんなに激しい感じなんだね。テンポも速いし」
「そうそう。挑戦してみたの。駆、分かってくれる?」
へへ、と姉ちゃんは嬉しそうに笑う。あぁ、その笑顔を見るために、俺は生きているんだ。
「夕飯、冷めちゃうから食べないか?」
「あ! ……忘れてた。食べる」
「姉ちゃんはうっかり屋さんだな」
「そんなことないもん」
むぅ、と少し怒る姉ちゃん。俺は姉ちゃんが普通の調子に戻ってきたと分かって、嬉しくなった。
「食べたら投稿するよ」
「あぁ。楽しみに待ってる」
マンションの一室で、ふたりぼっちの姉弟は静かに夜を迎えるのだった。
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