ふたりぼっちの裂ケル

6/6
前へ
/6ページ
次へ
「できた! 新曲! ちょっと駆、来てよ」 「わかった」  キリのいいところで俺は姉ちゃんの部屋に向かう。姉ちゃんの部屋はごちゃっとしている。いつものことだ。掃除をしないように言われているから、ごちゃごちゃのままだ。 「これなんだけど」  DTMとイラスト制作、画像編集と動画編集ソフトが一緒に開かれている。できた動画を再生する。姉ちゃんはいつもこうやって、誰よりも先に弟の俺に動画を見せてくれるのだ。 「お」  和風な感じだ、と思った。イラストは二人の少年少女が和服で舞を舞っていて、使われている楽器は日本のものが多い。三味線、和太鼓、琴。でも、その雰囲気は春の桜のものではない。むしろ、秋の台風のような……。  曲が終わって、姉ちゃんが口を開く。 「これね、タイトルは『雷撃』っていうの。雷をモチーフにしたの」 「なるほど。だからこんなに激しい感じなんだね。テンポも速いし」 「そうそう。挑戦してみたの。駆、分かってくれる?」  へへ、と姉ちゃんは嬉しそうに笑う。あぁ、その笑顔を見るために、俺は生きているんだ。 「夕飯、冷めちゃうから食べないか?」 「あ! ……忘れてた。食べる」 「姉ちゃんはうっかり屋さんだな」 「そんなことないもん」  むぅ、と少し怒る姉ちゃん。俺は姉ちゃんが普通の調子に戻ってきたと分かって、嬉しくなった。 「食べたら投稿するよ」 「あぁ。楽しみに待ってる」  マンションの一室で、ふたりぼっちの姉弟は静かに夜を迎えるのだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加