ふたりぼっちの裂ケル

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 小さかった頃の話だ。 「お前のせいで俺はなぁ!」 「私に怒って意味あるの!? あんたのせいでしょ!」 「あぁ!? 俺は悪くない!」 「は? いい加減認めなさいよ!」  喧嘩の絶えない家だった。両親は毎日言い争いをしていた。殴り、蹴り、髪を引っ張り、お互いの心をずたずたにすり減らして、また嘘を貼り付けた夫婦へ戻るのだ。 「かける……こわいよ」 「だいじょうぶだよ、ねえちゃん」  俺たち二人は家をこっそり出る。そして、夜の公園に出かける。  冬の公園は寒い。空気が凍っている。街灯に虫が集っている。ベンチに座る。冷たい。 「うぅ……」  恐怖で震える姉ちゃんの背中をさする。 「おれがついてるから」 「うん……」  姉ちゃんは深呼吸をした。息が白く空気に溶けていく。 「歌ってもいい?」 「いいよ」  姉ちゃんはすぅと息を吸う。  ほしはきらきら かがやいてる  おやはいらいら おこっている  だれかたすけて わたしたちを  どこかにいこう にげてにげて 「だめだ……くらいうたになっちゃった」 「いいんじゃない? そういうかなしいかんじょうも、うたになるんでしょ」 「そうだね」  姉ちゃんはにこ、と笑う。  思えば、こんな漢字も知らないときから姉ちゃんは作曲の才能を示していた。いつも俺が泣いていたときには「がんばれ!」と歌ってくれた。  その日、俺は決意した。大人になったら、絶対この家から出てやるって。  姉ちゃんは感受性が豊かだった。人の気持ちを誰よりも分かってしまう。その分、作曲の才能があるのだろう。だから、成長するにつれて学校に行けなくなり、引きこもりがちになった。 「姉ちゃん、いる? ご飯できてるぞ」 「……いい」  部屋の外から声をかけても、暗い返事が返ってくるだけだ。まだ親の喧嘩は収まらない。俺は仕方なくドアの前に食事を置く。  高校を卒業した俺はそんな姉ちゃんを無理矢理引っ張り出して、親の許可も得ずに部屋を借りた。そして、会社に行きながら不安定な姉ちゃんを支えた。  病院に通ううちに容態も安定してきて、姉ちゃんは高卒認定試験を突破して音楽の専門学校に通った。費用は俺の貯金から出した。なに、姉ちゃんのためなら構わない。安いものさ。  姉ちゃんはスキルが偏っていて座学じゃ最下位に近い成績だったが、実技では学年一のスコアを取り、専門学校を主席で終えた。しかも大手企業に勤めることになった。俺より全然給料もいい。  そんな姉ちゃんに対して劣等感を感じる俺だが、姉ちゃんと出会えて本当に良かったと思う。姉ちゃんがいなければ、きっとこんな楽しい毎日は送れていないから。
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