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鍵を開ける。そして、姉ちゃんの靴がないことに気づく。
「姉ちゃん?」
返事はない。念の為部屋を見て回ったが、いない。もぬけの殻だ。
俺は嫌な予感がして部屋を飛び出る。
夜の公園。
「姉ちゃん」
いない。
近所のコンビニ。
「姉ちゃん?」
いない。
よく一緒に行くスーパー。
「……姉ちゃん」
いない。
他にも行きそうなところを回ったが、いない。どこにも姉はいない。
時間にして一時間ほどだろうか。俺は歩き疲れてげっそりした顔で部屋に戻ろうとする。エレベーターに乗り、廊下を歩いて、ドアの前へ。
ドアノブに手をかけて気づく。鍵が空いている。
おかしいな。閉めたはずなのに。
泥棒にでも入られたのか? それとも。
動悸がする。俺は覚悟を決めて部屋に入る。
姉ちゃんの靴がある。ドアを開けた先、リビングのドアが空いている。誰かがこちらに背を向けて座っている。見覚えのある薄茶の髪の毛。
「姉ちゃん!」
俺は叫んでしまった。
「か、駆……?」
暗い部屋の中、こちらを振り向いた姉ちゃんは、ぼろぼろと泣いていた。
「探したよ。一体どこに行って……」
近づくと、姉ちゃんの左手首に赤い線が一本引いてあるのがわかる。右手には赤いマーカー。
「ごめんなさい、ダメだった。やめようとしたけどダメだったの……」
わっと泣き出す姉ちゃん。そんな姉ちゃんの背中をさすりながら、俺は言う。
「大丈夫、大丈夫。カッター買いに行ったわけじゃないんだろ?」
「うん……駆にきつく言われてるから」
泣く姉ちゃんにティッシュを渡す。姉ちゃんは鼻をかむ。
「怖かったの。死んじゃえとか、これ以上曲を発表するなとか、いなくなれとか言われて」
「そっか……。困るよな。やめてほしいよなぁ。でも、カッター買わないのちゃんと守れてるな。えらいぞ、姉ちゃん」
「そんなことないよ。私は全然えらくなんてない」
「それでも、俺にとっては立派な、自慢できる姉ちゃんですから」
「そう……なのかな」
「うん」
姉ちゃんは涙を拭くと、「うん? あれ……?」と呟く。
「どうしたんだ?」
「今インスピレーション湧いてるから一人にして」
「わかった」
おでこに拳をつけてうーんと考える姉ちゃん。そのまま何かぶつぶつ言いながら部屋に戻っていった。
一人になった俺は、そういえばと鍵を閉めていなかったことを思い出して急いで閉めに行き、夕飯をどうしようか考える。冷蔵庫を開ける。用意した昼ごはんは食べてくれているみたいだ。よかった。
とりあえず姉ちゃんが生きててよかった。本当によかった。
何を作ろうかなと考えてスマホで検索する。そうだ、野菜もあるし肉じゃがにしよう。そうしよう。
ちょうど夕飯が出来上がった頃、姉ちゃんが部屋から出てきた。
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