休肝日∶お腹いっぱい

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休肝日∶お腹いっぱい

休みを貰った2日間、僕は家の事以外は何をするでもなくぼぉっとして過ごしていた。テレビは何と無く見る気にならなくて、貴文さんが聞いてると知ってから聴き始めたラジオをずっと流していた。 腕の痛みは少しずつ引いてきたが、相変わらずあまり食欲は無い。事件翌日、昼近くに起きた僕はお腹が空いているのに関わらず、身体が食べ物を受け付けずフラフラしていた。昨日は肉まんを食べられたのに……。 貴文さんからのラインに気付いたのは、起きて暫くしてからだった。そしてふと、貴文さんと一緒ならご飯が食べられるかも知れないと思い、夕飯を一緒に食べたいと伝えると、夜、貴文さんが来てくれて、夕飯を作ってくれる事になった。 「食べる物はあったんですけど、何だか食べる気が起こらなくて……。だけど、貴文さんが作ってくれた料理を見たら、一気に食欲が湧いてきたんです」 正直に伝えると、貴文さんは次の日も夕飯を作りに来てくれると言ってくれた。 「嬉しいです!ありがとうございます。でも… ここまでしてもらうなんて、甘え過ぎですよね。申し訳ない…」 僕は自分自身に釘を刺す。 忘れちゃいけない、貴文さんとの関係は「友人」だということを…… しかしあの事件は、僕の中に小さな変化をもたらした。 以前貴文さんとの距離感に悩んで妹に話をした時の事を思い出したのだ。 軽い怪我で済んだから良かったものの、あのまま犯人に切り付けられ命を落としていたら……きっと、僕は貴文さんに想いを伝えなかった事を後悔するだろうと思った。 もちろん、正面から『好き』という勇気が出た訳ではない。しかし、『一緒にいたい』という気持ちはもっともっと伝えようと思ったのだ。 甘えたいし、貴文さんにも甘えて欲しい…。 『一緒にご飯食べたいです』の言葉は今の僕が言える精一杯の『甘え』だった。
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