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「合コンとかは？」
「ちょっと前までは結構頻繁にあったんですけど、最近周りも結婚して落ち着いてきちゃって…。最近はめっきりですね」
友人も近くに居なかったし、皆仕事が不規則(主に自分が)で予定が合わなかったりで合コンに誘われても、参加出来る方が珍しかった。
しかし、最近では予定が合ったとしても恋愛する労力を考えると自然と足が遠のいていたな、と話していて改めて気付いた。
「そうか…。紹介してあげられるような娘でも居れば良かったんだけど」
「いえ、永井さん見てたら、何かこのままでもいいかなぁって気がしてきました」
「えぇ？本当に？」
「はい」
結局彼女が欲しいのか欲しく無いのか、結婚したいのかしたくないのかよく分からなくなってきた。
「永井さんは、おいくつなんですか？」
「43だよ」
「えっ、もっと若く見えました」
「ははは、ありがとう」
笑いながら、永井さんは2本目の缶を開けた。
「ツマミ足りそう？」
「充分です！ありがとうございます」
飲まない時はもう少し食べるが、お酒が入ると炭酸でお腹が膨れ何時もより食べる量が減る。
「いや…あんまり食べないんだね？若いのに」
「もう30ですよ」
「充分若いじゃないか」
「へへへ。ありがとうございます」
微妙に永井さんの表情が動いたのを見て、ちょっと失礼だったかなと反省した。
「家はスーパーから近いの？」
「はい、歩いて5分くらいの所です」
「因みに、明日は休み？」
帰りを心配するような質問に、僕は内心苦笑いした。そんなに酔ってはいないのだが、友人曰く酒が少しでも入ると、僕は周りから「ふわふわ」しているように見えるのだそうだ。
「はい。永井さんは…」
「休みだよ」
「良かったぁ」
「え？」
「あ、ちゃんと帰るので心配しないで下さい。あの、いきなり来てしまった手前言うのもあれなんですけど…明日お仕事だったら申し訳無かったなぁって…」
「ふっ」と笑う永井さんを不思議そうに見ると「ありがとう、優しいんだね」と言われて驚いた。
「そうですか？」
うーん、と眉根を寄せて首を傾げる。
自分の中でごく自然に出てきた言葉だったからだ。
「そうそう。僕がさっさとシャワー行っちゃっても嫌な顔一つしなかったじゃない」
「ああ。ちょっとビックリはしましたけど、人それぞれ生活のリズムがあると思うので、気にならなかったですよ」
「ほんと…!」
永井さんは少しだけ驚いたように僕を見た。
その理由は、次の一言で分かった。
「あのさ…僕も今更だけど、加藤くん気疲れしてない？大丈夫?」
どうやら、ずっと僕が気を遣っていると思っていたらしい。確かに、他人の家だし全く気を遣っていないと言ったら嘘になるが、僕のどの行動や言動を「気遣い」だと思ったのか自分でも思い出せない程自然体で過ごしていた。
「えっ、全然ですよ」
「本当に？」
「はい。全く気を遣わない訳じゃないですけど、何て言うのかな…多少気を遣ってても、相手が心地いいと、自分も心地良いと言うか…上手く言えないんですけど」
上手く言えず、困ったように笑う。
ニュアンスだけでも、何となく伝わったのだろうか、永井さんは少し考えるような動作をしてから真顔で「いや…分かるよ」と答えた。
「だからか…」
「え？」
「加藤くんは一緒に居ても疲れないんだよな…大して深い付き合いでもないのに」
「ありがとうございます」
褒められたと、取っていいのだろうか。
僕は恥ずかしくなり、思わず微妙に視線を逸らした。頬が熱いのは酒のせいだけではなさそうだ。
「あー…こんな事言われても困るか。ごめんね」
「いえ、全然！寧ろ嬉しいです…というか、僕の方こそ図々しいんですが、初めてお邪魔するのに、居心地がいいというか…」
お互い顔を見合わせて笑った。
決して雰囲気が悪かった訳では無いのだが、先程まで妙な雰囲気になりかけていたのが和らぐ。
「何か面白いね。普段スーパーでちょっと立ち話する程度だったのに、今こうやって一緒に食事しながら話してるの…不思議な感じ」
「良く考えたら凄い事ですよね」
本当に。
あの時勇気を出して呼び止めて良かったと思った。そして気付くと、永井さんが空の皿を重ねて運ぼうとしている。
「あ、洗い物ですか？僕にやらせて下さい！」
「えっ、いいよ」
「今日お邪魔させてもらったせめてものお礼に…！」
「家に誘ったの僕だし、気にしないで」
「そんなに酔ってないので、お皿割らずにできますから…!」
必死の一言に、永井さんが吹き出した。
何か変な事を言っただろうか…
「うん、分かった。じゃぁ水切りマットだけ出すね」
「ありがとうございます」
洗い物をしてくれている間に永井さんが机を拭き缶を片付けてくれたので、僕は洗い物が終わると帰り支度をした。
「今日はありがとうございました」
「いや、こちらこそ楽しかったよ。ありがとう」
「あの…」
ちょっと躊躇って「連絡先、聞いてもいいですか？」と切り出した。まだまだ、もっと永井さんの事が知りたくなったし、話もしたかった。
「いいよ」
やった！
内心、ガッツポーズをしながらスマホを取り出す。連絡先を交換したという事は、「知人」から「友人」になれたと思っていいのだろうか。
「ありがとうございます!良かったらまたこうやってご飯食べましょう。今度は僕の家でもいいですし、お店でもいいですし」
「うん、そうだね。また連絡して。僕は基本的に土日祝休みだから」
「分かりました」
「じゃぁ、お休み」
「お休みなさい」
バタン、とドアが閉まる。
グッと大きく伸びをした。
(楽しかったぁ…)
次は、いつ会えるだろうか。
(帰ったらシフト確認しよ)
まだ寒い夜道を、アパートに向けて歩き出した。
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