休肝日?∶初めてのネパール料理

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休肝日?∶初めてのネパール料理

『メッセージありがとう、ごめん、凄く眠いから明日ちゃんと返事するね。お休み』 話は少し前に遡る。 永井さんと連絡先を交換してすぐ、次の約束を取り付けようとラインをした所、こんな返事が返ってきた。 (大丈夫かな…というか、眠いなら返事明日で良かったのに) 自分はマメな方ではないから、律儀に返事をくれた事に対して嬉しい反面、申し訳ない気持ちになってしまった。それより、体調が気になる。ただ眠いだけだといいんだけど…。 翌日。 バックヤードの事務所で仕事をしていると、更衣室からパートさんの声が聞こえた。 「今日もあの男性(ひと)来てたね!」 ―ピクッ 永井さんの事だろう、思わず反応してしまう。 あれから、ラインの返事は来ていない。 「でも何か、いつもと様子違わなかった?」 「そう?」 「うん、なんか落ち着かない様子というか…」 ―ガタン! いつもと様子が違うという事は、やはり体調が悪いのだろうか。心配になり、僕はバックヤードを飛び出した。 (まだいるかな……あっ、いた!) 「こんばんは!」 「あ!こんばんは」 鮮魚コーナーにいる永井さんを見付け駆け寄る。 近付くと、永井さんは申し訳なさそうにラインの返事が遅くなった事を謝った。 (えええ!そんな事気にして無かったのに!) それより永井さんの体調が心配で様子を覗うと、大丈夫との事だった。…良かった、と安堵したのも束の間、僕が仕事中なのを気遣い早々に行ってしまった。 (あれ…もしかして僕に謝る為だけにウロウロしてた?いやいや) 買い物カゴは持っていたし、多分買い物のついでだろう。でも、永井さんなら…考えかけて、止めた。とりあえず仕事に戻ろうと僕はバックヤードに入っていった。 その日の内に返事が来て、サクっと日にちと場所が決まったのでホッとした。 (楽しみだな…) 何を話そうか。 そんな事を考えていたら落ち着かなくて、その日はなかなか寝付かれなかった。   _______________________________________________ ―そして、約束当日。 朝からソワソワしながら、トラブルが無いよう願い1日の勤務を終えた。18時過ぎ。 「お先に失礼します!」 急いで着替えると、事務所を後にした。 後日、この時の様子から彼女でも出来たのではないかと噂されたのは予想外で驚いたけど。 従業員用出入口から出てスーパーの表側に回るとすぐ、永井さんの姿を見付けて走り寄る。 「永井さん!」 「あ、お疲れ様」 「お疲れ様です!寒い中お待たせしてしまってすみません」 「大丈夫だよ」 寒い中待たせてしまったのに、嫌な顔一つしない。「じゃぁ、行こうか」と店に向かって歩き始めた。 永井さんが挙げてくれた候補の店の中で僕が選んだのはネパール料理だった。他に、イタリアン、中華、和食、洋食などを挙げてくれてどの店も魅力的だったのだが、どうせ外で食べるなら、普段食べられないものがいいと思いネパール料理を選んだ。 昔っから方向音痴だったため一緒に行って欲しいとお願いしたが、正解だった。永井さんの案内で辿り着いた店は、地図を頼りに一人では到底辿りつけなさそうな奥まった住宅街の一角にあった。 (いい香り…スパイスかな?) 店に入ると、陽気な店員さんが席に案内してくれた。 「めちゃくちゃ雰囲気あるお店ですね」 少し暗めの照明に、ネパール語(?)の歌のBGM。店内には日本人のお客さんが居たが、雰囲気だけならネパールに来たみたいだった。(行ったこと無いけど) 「ははは、そうだね。とりあえず飲み物は…」 「ビールにします!永井さんは?」 「僕も。料理は…加藤くんお腹空いてるよね?」 「はい」 「じゃぁ腹に溜まるものがいいかな…」 「あっ、でも1品で溜まっちゃうものより色々食べてみたいです」 折角来たのだ。次があるか分からなかったし、色々食べてみたかった。しかし、ネパール料理の知識は全く無いため、いくら写真付きとは言えメニューを見てもどんな料理か想像がつかなかった。メニューページを行ったり来たりしていると、永井さんが声をかけてくれた。 「嫌いな物やアレルギーは?」 「ありません」 「最初は料理、適当に選んでもいいかな?」 「はい!お願いします」 内心ホッとした。 永井さんは何やら呪文のような名前の料理をいくつか注文する。すぐにビールが運ばれてきて乾杯した後、料理の説明をしてくれた。その後サービスだと言って、店の人がサラダとお煎餅みたいなやつを出してくれる。驚いていると、永井さん曰く良くある事なのだそうだ。それらをツマミに飲んでいると、料理が運ばれてきた。 「シツレシマース!チャゥミントチョエラデス」 店員さんがホワッと湯気を上げたチャゥミンとチョエラをテーブルの上に置くと、すぐに取り皿を用意してくれた。 「ありがとう」 永井さんがそう言って店員さんに笑顔を向けると、向こうも笑顔で「ゴユクリドーゾ」と言って席を離れた。 前から思っていたけれど、永井さんは本当によく「ありがとう」と言う。そういう所を尊敬していて、自分も言えるようになろうと日々心掛けているが、習慣化するまでなかなか大変だった。 「永井さんのそういう所、いいですよね」 「え」 言ってしまってから急に恥ずかしくなり、聞き返されたが誤魔化してしまった。
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