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休肝日∶お好み焼きとフランクフルト
(楽しみだなぁ…)
今日は永井さんと花見に行く約束をしている。
昨日は楽しみすぎてなかなか眠れなかったから、少し寝不足ぎみだ。欠伸を噛み殺しながら僕は出掛ける準備を始めた。
何故永井さんと花見に行く事になったのか―…
もう何週間か前になるが、実家から届いた大量の仕送りのお裾分けを取りに来て貰うついでに、永井さんと一緒に夕食を食べた。以前に僕が作るから食べに来てほしい、と話していたからだ。
ついでとは言え、来てもらうからにはと色々なレシピサイトや動画を見て作るメニューを決めた。
当日、休みだった僕は午前中に買い出しに行き、昼過ぎから支度にかかった。料理に慣れていない為、間に合うように早めに。
自炊を始めて間もなく、大した回数は作っていないが始めてみると結構楽しかった。実家が飲食店だったため、料理に何となく親しみがあったせいかも知れない。
頑張って作った料理を、永井さんは美味しいと喜んで全部食べてくれた。嬉しかったし、とても楽しい時間だった。……色々、話も聞いてくれた。
そして、永井さんの事も今までより知ることが出来た。いいのか悪いのか、実家と微妙な距離感を保って付き合っている所なんかは、思わず似てるなぁ…と思ってしまったけど。
そしてその時に、永井さんが花見に行かないかと誘ってくれたのだ。久しく友人と出掛ける事が無かった僕は嬉しくてふたつ返事でOKした。
そして、今日がその約束した日。
早めに出たつもりだったけど、駅が見えると永井さんはもう来ていて、慌てて駆け寄った。
「すみません、遅くなってしまって」
「いや、まだ5分前だから遅くないよ。僕が早く着いちゃったんだ」
前も待たせてしまったし次からはもっと早く来ようと固く心に決め、早々に電車に乗り込んだ。
久しぶりの電車でのお出かけに、否応にもワクワクしてしまう。
「電車、久しぶりに乗りました」
「普段全く使わないの?」
連休がなかなか取れない為、1日家の事で終わるから出掛けられないと話すと「今日は大丈夫だったの?」と聞かれた。
「はい!事前に予定してたので、いつもなら休みの日にやろうと溜め込んじゃう家の事を事前にやってきたから大丈夫です!」
つまり、頑張れば休みの日も時間が取れる。
しかし、頑張って時間を作ってまでやりたい事も予定もなくて、家事を休日に回してしまうのが現状だ。
「疲れてない?大丈夫?」
「今日は時間つくってくれて、ありがとね」
優しいなぁ…
そこまで気遣ってもらえて、僕は感動すら覚えた。こういう人になりたい、と常々思う。
駅に着き、川沿いの桜並木まで10分くらい歩いた。満開が近く人も多い。逸れてしまわないように、ぴたりと永井さんの横に付いて歩いた。
「…わぁ!綺麗ですね!」
「本当だね」
見事な桜並木が川の両端に続いていている。
「あ、見て下さい!」
花びらが川の水面を薄ピンク色に染めているのを指差すと、永井さんはそれを桜の川だと言っていた。
「綺麗ですね…ここに来ないと見れない景色ですね」
「本当に。足を運んだ甲斐があったね」
「はい」
川沿いにして良かった。そう、心から思った。
その後また暫く歩くと、露店がある。丁度昼時だったので、僕達はそこで軽く食べる事にした。
焼きそば、お好み焼き、フランクフルト、フライドポテト、カキ氷、チョコバナナにリンゴ飴…心躍るラインナップだ。
「何だか懐かしいな…」
「ふふっ、そうですね。子どもの頃に夏祭りとかで食べたようなラインナップ」
「そうそう!」
「僕、フランクフルト食べたいです!」
「いいね、僕はお好み焼きかな」
子どもの時、大好きだったフランクフルト。
どの露店も魅力的だったけれど、僕は露店エリアに入った時から食べるならフランクフルトと決めていた。
「じゃぁ買ってきますね!待ってて下さい」
永井さんが動くより早く、買いに出た。中高の部活動のノリではないけど、こういうのは後輩(?)が先に動かないとね!
タイミングが良かったようで、どちらの露店でもすぐに買うことが出来た。人混みを掻き分け、永井さんの待つ場所へ戻る。
「お待たせしました!」
「ありがとう。早かったね」
「はい、丁度タイミングが良く人が並んでなくて」
「そっか」
「冷めないうちにいただきましょう」
「そうだね」
「「いただきます」」
がぶり。
オレンジ色のウインナーに、たっぷり付けたケチャップとマスタード。ジャンキーな、いかにも子どもが好きそうな味だ。懐かしいなぁ…
郷愁に浸っていると、永井さんがお好み焼きを一口くれた。お好み焼きも、よく食べたなぁ。遠慮なく頂くと、目の前の永井さんが固まっている…
「どうかしました?」
「あ…いや、パックごと渡せばよかったかなと思って。食べさせてもらうの、嫌じゃなかった?」
全く気にして居なかった。寧ろ、食べさせてもらえてラッキー、と思ったぐらいた。
「いえ?全然。それより、齧りかけですけどフランクフルトも食べます?」
今度は僕が「はい」と口元にフランクフルトを持っていくと、遠永井さんは慮がちにガブリと一口齧った。
「懐かしい味…!」
綻ぶ表情につられ、僕も自然と笑顔になった。
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