休肝日∶お好み焼きとフランクフルト

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「沢山歩いたね」 「本当に!久しぶりにあんなに歩きました」 16時から開いている居酒屋を探し、そこで夕飯を摂る事にした。まだ開店したばかりで、貸し切り状態だった。とりあえず注文した生ビールをチビチビ飲みながらペラペラとメニューを捲った。 「和食推しみたいですね」 「そうだね」 小難しそうな毛筆体で書かれた縦書きのメニュー表には、慣れ親しんだ和食もある。それとは別に『本日のおすすめ』と書かれたメニューを見ている時だった。 「あ!これ注文してもいいですか?」 僕が指差したのは「桜鯛の刺し身」だった。 「いいね、桜鯛」 「花見だったし、妹にも子どもが出来ておめでたいから丁度良いかなって」 お祝い事の時は鯛、少し考えが古いかなと思ったけれど「成る程!」と貴文さんは頷いてくれた。あれ?でも刺し身だと尾頭付きじゃないけど…まぁいいか。気持ちの問題だ。 他にも注文を済ませ、僕がスマホで撮った写真を見ながら今日の話なんかをした。貴文さんはどうやら写真を撮り忘れていたらしい。しっかりしているようで、どこか少し抜けてる…歳上なのに、思わず可愛いなと思ってしまった。 写真を送って欲しいと言われたので、スマホを操作していると料理が運ばれてきた。手早く操作を終え「送信しました」とスマホを置いた。 「「いただきます」」 二人して、お刺し身を一口。 「美味い…!」 「美味しいですね!」 続いて運ばれてきたたらの芽の天ぷらは初めて食べた。少し苦い大人の味で、僕は正直少し苦手だ。白エビのかき揚げは期待通りの美味しさだった。 美味しいけど、まだまだお腹は満たされなくて。 「ちょっとお腹に溜まるものも頼んでいいですか?」 僕は筍ご飯を注文した。一から処理して作った筍ご飯は食感が良く絶品だが、絶対に自分ではやらない。(やれない) 「筍って美味しいけど処理が大変ですよね」 「そうそう!食べたいんだけどね」 どうやら同じ事を考えていたらしい。 思わず笑ってしまった。 それから更に何品か注文し、飲みながら話しながら食べて店を出た。楽しい時間はあっと言う間だ。 「まだちょっと早いけど、明日仕事だよね」 「はい」 「この辺で解散にしようか」  僕を気遣ってそう言ってくれたが、本当はまだ話したかった。しかし、ここで我儘を言って困らせる訳にはいかない。 「またお出かけしましょうね」 「そうだね」 分かれ道。 僕はこの信号を渡って反対側の道へ 貴文さんは右の道へ行く。 青だった信号が点滅し、赤に変わった。 「休みが合えばいいんですけど」 「仕方ないさ」 ―1回 「次は何処にしましょうね?」 「行きたい所とかあるの?」 「うーん…夏なら花火とか」 「だいぶ先だな」 ―2回 「あ、日帰り温泉とか行くって言ってませんでした?」 「え?うん、たまにね」 「いいところあったら、連れていって下さいよ」 「僕は構わないけど、雄介くんが辛くない?時間的に」 ―3回 「若いから大丈夫です!」 「ははは、そうかい。考えておくよ」 「お出かけはまだ先になるかも知れないですけど、それまでにまたご飯は行きましょうね」 「うん、また都合良い日に」 ―4回目、信号が点滅して赤に変わる。 「今日は本当にありがとうございました」 「こちらこそ、ありがとう。気を付けて帰ってね」 「貴文さんも。お休みなさい」 「お休み」 5回目の信号で、ようやく僕は信号を渡った。 僕は名残惜しい気持を振り切るように、真っ直ぐ前を見て足早に自宅のアパートへと向かった。
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