休肝日?∶エビとそら豆の中華炒め

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休肝日?∶エビとそら豆の中華炒め

自炊を始めてから3ヶ月が経とうとしている。 幼い頃から僕にとって料理は身近な存在だったから、自炊の楽しさに気付き習慣化するまで大して時間はかからなかった。遅番の時は時間が無いから簡単なものになっちゃうけど。 今日は早番で時間があったので、自炊する時間がある。 「お疲れ様でしたー」 タイムカードを切ってから上着を羽織り、売り場に出る。鮮魚コーナーを覗くと、値引きシールを貼った殆どの商品がはけていた。 (うんうん、食品ロス削減) 売れ残って廃棄処分するより、多少利益は減っても、購入して食べてもらえる事の方がよっぽどいい。僕は続いて野菜コーナーへ足を運んだ。 「うわ」 思わず声に出てしまった。 値引きしたそら豆が、殆ど減っていないのだ。 まぁ確かに、万人受けするかと言われると独特な青臭さのせいで、好き嫌いがハッキリ分かれる野菜ではあるが。 (買っていこう) 僕は好きな方だったから、そら豆を手に取り食べ方はどうしようかと考える。なかなか思い浮かばず、そのまま再び鮮魚コーナーに戻ってきた。 (あっ!エビ!) 好物のエビが値引きになっている。剥きエビだったので加熱しないと食べられないから、そら豆と一緒に炒めてしまおうか。 (決まり!) そら豆と剥きエビを手にレジに行き、パートさんにスキャンしてもらう。ちょっと前に入ってくれた、遅番に入れる学生さんだ。 「あっ、加藤さんお疲れ様です!」 「お疲れ様。遅番ありがとう」 「いえ…加藤さん自炊するんてすか?」 購入したのが手を加えなければ食べられない物だったからか、少し驚いたように僕の顔を見る。無理もないよな、と苦笑いしながら「できる時はね」と言うと彼女は目を見開いた。 「尊敬します!料理ができる男の人って素敵ですよね」 「そ?ありがとう」 可愛いらしく微笑む彼女に、若かったらドキリとするんだろうなぁと客観的に思った。妹がいるのもあるが、10以上歳が離れているせいかも知れない。大してトキメキもせず「お疲れ様」と言うと僕は急いで帰宅した。 「ただいまー…」 返事は無いが、毎日何となく言ってしまう。 いつか「おかえり」を言ってくれる人は現れるのだろうか。僕は荷物を片付けるとシャワーをしてからキッチンに立った。 (さてと…) 冷蔵庫からニンニクを出して皮を剥く。チューブでも良いのだが、好きだし日持ちするのでだいたい冷蔵庫に入っている。皮を剥いたら潰して、みじん切り。 ごま油を入れたフライパンにニンニクを入れて、弱火にかけて香を出す。その間に手早くそら豆を剥く。エビとそら豆をフライパンに入れ、酒、塩、胡椒。中火。火が通ったら完成だ。 (あっ、ご飯!) 毎日炊飯するのが面倒なので、休みの日に大量に炊いて冷凍している。それを冷凍庫から1つ取り出すとレンジにかけた。 ピーッピーッ ご飯、おかずをローテーブルに運んで合掌。 「いただきます」 エビとそら豆を口に運ぶ。フワッとニンニクが香り、程よい塩気がご飯を誘う。僕は欲するままにご飯を口にした。 (うーん!美味しい!) が、何かちょっと物足りない。 立ち上がり、冷蔵庫からレモンサワーを出してきた。カシュ、とトップルを開け喉に流し込む。 (爽やかぁ) 念のため言っておくが、毎日は飲んでいない。 お酒に合いそうな料理だな、と思うと飲みたくなるから、僕の場合お酒は料理ありきなのだ。 (少し前だったら考えられないな…) 食べながら、ぼんやり思い返す。 以前は殆ど作らなかった。作るという発想すらなかったのだが、貴文さんに言われて何となく始めてみたら意外にもハマったのだった。 (そういやGW、予定あるのかな…) 自分と違い、一般企業だから休みはカレンダー通りだろうか。だとしたら被らな… 「あっ!」 被る日が、1日だけある…! 花見以来結局ご飯も行けなかったし(ほぼ毎日スーパーで会ってるけど)、誘ってみよう。 僕はスマホを操作し、メッセージを送った。 『お疲れ様です。 GW、最終日だけ休みが取れそうなのでお出かけしませんか?』 貴文さん、実家に帰ったりお出かけしたりするかも知れないから、駄目かも知れないけど…。 断られても落ち込まないように、心の中で予防線を張る。ドキドキしながら待っていると、意外にも早く返事が来た。 『勿論いいよ、もしかしたらその翌日も休みだったりする?』 やった!嬉しい! でも、翌日も休みかってどいう事だろう… 首を傾げながら『休みです』と返事をした。 『有給取るから、どっか泊まりで旅行に行こうか?』 驚きすぎて、思わずスマホを落としそうになる。何度か深呼吸して気持を落ち着かせると、貴文さんに電話をかけた。 「もしもし?」 「あ、お疲れ様です!あの、旅行って…」 「うん、雄介くんが良ければ」 良いに決まっている…! 夢じゃないだろうかと、電話で話している間もソワソワと落ち着かなかった。 「花見に行ってから、結局ご飯も行けなかっただろう?だからさ」 「有給、取れるんですか?」 そう、GWの翌日。 僕は休みだが、通常なら仕事が始まる日だ。 僕の休みに合わせて有給を取ってもらうのは、少し申し訳ない気がした。 「忙しい時期じゃないし、大丈夫だよ」 「やった!じゃぁ行きたいです!」 「何処に行きたいとか、今突然言われても浮かばないだろうから、行きたい場所あったらラインして。僕もいくつか候補挙げてラインしとくよ」 相変わらず優しいなぁ。 「分かりました。突然電話してすみません」 「うんん、大丈夫。お疲れ様」 「お疲れ様です」 「お休み」 「お休みなさい」 やったぁ!と叫びたくなるのをグッと堪え代わりに、レモンサワーをごくごくと飲み干した。 何事も言ってみるものだ。 (旅行なんていつぶりだろう…) 社員旅行などもないし、多分大学の卒業旅行以来だろう。久しぶりの、友人との旅行。今からワクワクする気持ちが収まらなかった。 (食べたら旅行サイトとか検索してみよう) 空になった缶を置き、僕は再び食事を再開した。
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