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『お待たせ致しました。列、車が発車致します。閉まります扉にご注意下さい』
―シューッ、バタン
ガタン、ガタ、ゴト、ガタゴト…
徐々に速度を上げていく列車の窓の外を見ながら、楽しかったという満足感と、旅行が終わってしまう寂しさが綯い交ぜになり切ない気持ちになる。雄介くんも、列車が動き出して暫くの間はずっと外の景色を眺めていた。
列車は行き道をそのまま反対方向に向かって走っていく。逆から見ると、景色もまた違って見えた。行きとは反対に、次第に山から離れ、畑や田んぼの中に民家が建つような場所へ入っていく。
「あ、さっき買ったやつ食べませんか?」
「そうだね」
宿の朝食をしっかり食べた為さほど腹は減ってなかったが、家まではもたないと言う事で、先程温泉街を散策している時に購入した軽食を取り出した。彼はちょっと大振りな地元産の牛肉が入った肉まん、私は五平餅。
「「いただきます」」
大きな五平餅には砕いたクルミの入った甘めの味噌ダレがたっぷりかかっており、食べごたえは充分だった。
「貴文さん、一口食べますか?」
「うん、雄介くんも食べる?」
違うものを食べる時は恒例になりつつある分け合いっこ。最初こそ驚いたものの、もう慣れてしまって全く抵抗は無かった。
雄介くんが食べていた肉まんも、みっちりお肉が詰まっておりジューシーで美味しい。一人だと両方食べたくても1つしか食べられないから、得した気分になる。
食べ終わって暫くすると、頭がぼんやりして眠気に襲われた。出かかった欠伸を噛み殺す。
(昨日しっかり寝たんだけどな…)
「眠たかったら寝て下さいね」
その様子に気付いた雄介くんが声をかけてくれた。
「うん…ありがとう」
せっかく一緒に居るのに申し訳無いな、と思いつつ、私は軽く目を閉じた。
「…さん、貴文さん」
「ん…」
「もう着きますよ」
耳元で声が聞こえ、フッ、と目を覚ました。
どうやら寝ている間に雄介くんの肩にもたれかかってしまっていたようだ。
「ごめん、重かったよね」
「いえ、全然」
「それに、昨晩は僕が迷惑かけちゃったのでおあいこです」とニッコリ笑った。急いで荷物をまとめていると、列車は徐々にスピードを落としていく。
ガタンゴトン、ガタ、ゴト、ゴトン…
シューッ
ゆっくりホームに滑り込んだ列車が完全に停車し、ドアが開く。この特急列車はこの駅で回送になる為、車掌が車内を点検してまわっていた。
「2日間ありがとうございました」
明日からはお互い仕事があるため、昼過ぎと少し早い時間だったがここで解散だ。改札を出ると、雄介くんは改めて私の方を見て礼を口にした。
「いやいや、私の方こそ楽しかったよ。ありがとう」
「また明日」
「うん、また明日」
名残惜しい気持ちとは裏腹に別れがあっさりしているのは、私がスーパーに行けば明日も会えると分かっているから。動きが鈍る脚を叱咤し、お互い帰路についた。
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