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休肝日∶お土産
「お休みありがとうございました!」
旅行翌日、出勤して早々に僕は店長に挨拶してお土産を渡した。
「へぇ、珍しい。旅行行ってきたんだ」
「はい」
「彼女と?」
「いや、友達ですけど」
「へぇ、加藤くん友達居たんだね」
「それなりに」と露骨な皮肉を笑顔でかわすと、事務所のテーブルに買ってきたお土産を置いて「皆さんで召し上がって下さい」とメモを貼り付けた。
「おはようございまーす!」
「おはようございます」
パソコンに向かい朝イチの事務作業に取り掛かると、次々とパートさん達が出勤してくる。
「あっ、お土産がある」
「誰から?」
「僕でーす」
「「えっ?!」」
いつも大体一緒に出勤してくる40代の主婦二人組は、驚いたように僕の顔を見た。
「そんなに意外でした?」
「いや…だって、ねぇ?」
「うん。この店舗に来てから1回もこんな事無かったから」
まぁ、確かに。ここ2年、まともに旅行なんか行かなかったもんな。パートさん達が驚くのも無理は無い。僕は苦笑いした。
「ね、もしかして加藤さん彼女できた?!」
「あ!それ私も思いました!最近やたら楽しそうですよね」
「えっ?!彼女なんかいませんよ?!旅行も友達と行っただけで…」
「「なぁんだー」」
二人はあからさま残念そうな様子で更衣室に入って行った。パソコン越しに店長のやたら大きな溜息が聞こえ、僕は天を仰いだ。
ジーザス。僕は何か悪いことしたでしょうか…?
それにしても。
改めてパソコンに向い作業しながら、先程パートさんに言われた言葉を思い出す。
『最近やたら楽しそうですよね』
(そんなに様子変わったかなぁ…?)
彼女ではないが、貴文さんと友達になった。
大きな変化と言えばそれくらいだが、それによって自分自身が大きく変わったとは思わなかった。しかし傍目で見ると、そうではないらしい。まぁ悪口を言われている訳ではないので、別にいいけれど。
僕は気を取り直して事務作業に集中する事にした。
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「有給ありがとうございました」
「うん」
「これ、お土産です」
「うん……えぇ!?」
「何か」
「いや、ありがとう…」
有給消化してこいと言ったのはそっちだろうに。
私は心の中で上司に毒づいたが、波風が立つのは本意ではないので、営業スマイルを浮べると「失礼します」とデスクに戻った。
連休+1日有給を取ったので、繁忙期ではないもののそれなりに仕事が溜まっている。私はメールチェックと返信を済ませると、早々に書類の束に向き合った。
どれくらい経っただろうか。
いつも会社に弁当を配達してくれている業者の姿を見留めて時計を見ると、11時50分。そろそろ昼休憩の時間だ。いつもならお茶を淹れて弁当を取りに行くが、今日は少しの時間も惜しくてギリギリまで仕事をしていた。すると若い社員の娘が弁当とお茶を持ってきてくれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
「いえ…あの、お土産ありがとうございます」
「いやいや、少しばかりで申し訳ないね」
若いが、それは私に比べての事で若手の中では勤続年数は長い方だった。確かインターンから来ていた筈だ。
「何だか最近の永井さん、雰囲気が少し柔らかくなりましたよね」
「そ?」
「お土産なんて買ってきてくれたのも初めてだし」
「ああ、まぁね…」
それはただ単に、今までお土産を買うような場所に行くことが無かったとか、有給を使わせてもらったお礼とか様々な理由からだったがいちいち説明するのも面倒だったため、適当に返事をしておいた。「柔らかくなった」かどうかはわからないが、恐がられていないからよしとしよう。
言いたい事を全て言ったのか、その娘は会釈をすると席に戻っていった。
私も弁当を開け、食べ始める。
頭の中は既に午後からの段取りでいっぱいになっていた。
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