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第二十一夜∶餃子
ようやく身体が暑さに慣れてきた。食欲もある。
明日は休みだし、今日はガッツリ食べて飲むぞ。
ガッツリと言えば、私の中では中華料理だ。味が濃いめでパンチがあって、酒がすすむ。
スーパーに着くと、カゴを持ち店内へ。
中華という方向性は決まったものの、具体的には決まっていない。値引き品も何があるか分からない。
さて、どうするか…。
野菜コーナーを見てまわっている時だった。
「こんばんは、貴文さん」
「こんばんは…」
雄介くんだ。
一瞬プライベートの呼び方で呼ばれて戸惑ったが、よく見ると今日は制服のエプロンを着けていない。
「あれ?もう今日は終わり?」
「はい、シフトの調整で」
「そうか、お疲れ様。今日は何を作るの?」
「それがまだ決まってなくて…色々物色してた所です。貴文さんは?」
「中華が食べたいなと思ってるんだけど、まだ決まってなくて。雄介くんは中華と言ったら何?」
「断然、餃子です!」
突然キラリ、と彼の目が光った気がした。
「餃子、好きなの?」
「はい!大好きなんです!多分、食べ物の中で一番好きだと思います」
私も餃子は好きだ。ビールとの相性は言わずもがな。しかしチルドや冷凍ではもの足りず、かと言って餃子の為だけに店に入るのも面倒で最近食べていない。
「作った事ある?」
「餃子は好きだから、実家に居た時餃子だけは手伝ってました。一人暮らしになってからは作ってないですけど」
「一人だと、皮が余っちゃいますしね」と苦笑いしながら言った。
話をしていると、餃子がどんどん食べたくなってくる。一人で作ると皮が余ってしまうのならば…
「雄介くんが良かったら、ちょっと急だけど家で一緒に餃子作らない?」
「えっ!いいんですか?!」
雄介くんは驚いたように目を見開く。
どうやら提案を受け入れて貰えそうな雰囲気だ。
「僕、餃子作った事無いから教えてよ。一緒に作ろう」
「ありがとうございます!はい、お願いします」
「こちらこそ。あ、因みに明日は仕事…」
「ちょうど休みなんです!」
ニッコリ笑う雄介くんを見て、良かった、と胸を撫で下ろした。今から作り出すと少し遅くなってしまうから、休みで良かった。何でも言ってみるものだ。
(久しぶりに一緒にご飯食べられるな…)
素直に、嬉しかった。
どうやら彼も同じだったようで、私が持っていたカゴを持つと「キャベツと、ネギと…」と必要な物をどんどんカゴに入れていく。その楽しげな様子に、こちらまで楽しい気分になってくる。
「あ、ニンニクと生姜はチューブので良ければ家にあるよ」
「了解です!じゃぁ後は豚ミンチと餃子の皮ですね」
彼の職場で、プライベートの状態で並んで夕飯の買い物をしている、この状況。決して嫌とか言うわけではないが、不思議な気分だった。
「あ!値引きした豚ミンチ発見しました!」
「っ!ははは!ありがとう!」
嬉しそうに報告してくる雄介くんに、思わず吹き出してしまった。確かに自分はいつも値引き品を選んではいるが、まさか彼がそれを選ぶなんて。
恥ずかしかったのか、顔を微かに赤くしながら「いつも安いの買ってるじゃないですか」と肉のパックをカゴに入れる。
「ごめんごめん、可愛いなと思って」
「餃子の皮はこれでいいですよね」
私の言葉に特に反論はせず、代わりに更に顔を赤くして餃子の皮をカゴに入れた。
「あ、飲むならお酒買ってく?家、ビールと焼酎しかないから」
「あ、折角だし飲みたいので買います!」
リカーコーナーでビールとレモンサワーをゲットし、レジへ。
「あ!加藤さん、お疲れ様です」
レジをしてくれたのは、まだ若い(大学生くらいかな?)女の子だった。加藤くんを見て嬉しそうに微笑むと、不思議そうに私をチラリと見て商品をスキャンしていく。
「あ、半分出します!」
「いや、誘ったの僕だし、作り方教えてもらうから」
「えっ、でも」
「いいから、ね」
ニコリと笑い、私は会計を済ませた。
「あのぅ…加藤さんのお兄さんですか?」
「うんん、友達だよ」
笑顔で答える雄介くんに、彼女は驚いたように目を丸くした。
「だいぶ歳が離れてるんですね!……随分仲良さそうですけど」
「うん?まぁね。友達に年齢なんて関係ないでしょ?」
「確かに…」
「遅番ありがとうね、あとお願いします」
「あ、はい」
「行きましょう」と荷詰め台にカゴを運ぶ雄介くんに促され、とりあえず女の子に会釈すると私も荷詰め台に移動した。背後に微妙に視線を感じながらエコバッグを出すと、雄介くんはテキパキと買ったものをしまい私達はスーパーを後にした。
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