第二十二夜∶焼き茄子と焼きイカ

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第二十二夜∶焼き茄子と焼きイカ

連日30度以上の暑い日が続く、夏真っ盛り。 基本オフィスワークの私が外回りなどすると、屋内と屋外の温度差で体力を消耗する。午後からそんな外回りを3件こなし、スーパーに着いた時はクタクタだった。 カゴを持ち店内に入ると、汗で濡れたワイシャツが冷え身震いした。最近省エネとかでエアコンの温度はさほど低くは無い筈だが、外が暑すぎるせいでかなり冷えているように感じる。冷ケースに近付くと鳥肌が立った。 (こりゃ早く外に出なきゃ風邪ひくな…) そんな事を考えながら野菜を見ている時、パッと目に入ったのは立派な茄子だった。しかも、特売。 (まだ今年は食べて無かったな。よし、一品目は茄子だ) 次。鮮魚コーナー。 「寒っ」 鮮度保持の為、先程の野菜コーナーより寒い。 一刻も早く冷ケースから離れなければと思いつつ、商品は気になるので渋々近付いて見る。 (お。イカ…!しかもツボ抜き済み!20%引きは有り難い) 何時だったか、イカは疲労回復に良いと聞いたことがある。今の私にうってつけでは無いか。しかも値引きもされていたし、即決。 私はイカをカゴに入れるとレジへ向かった。 (イカと茄子か…) 買ったものの、どうやって食べようか。 並びながら考えていると、自分のレジの番がやってきた。 「こんばんは」 「あ、永井さんこんばんは…って大丈夫ですか?」 「ああ、ちょっと汗が冷えて寒いだけだから大丈夫だよ。ありがとう」 「えっ」 雄介くんはあからさま心配そうな表情(かお)をしたが、2つしか買っていないためすぐレジは終わってしまう。 「お疲れ様、じゃぁ」 「生姜!」 「え?」 「身体温めるなら生姜がいいですよ!」 荷詰め台に移動しようとする私に聞こえるよう、彼は少し大きめな声でそう言った。後ろに並んだ客がキョトンとしている。 「ありがとう!」 私が言うと、彼はニコリと笑い次の客のレジを始めた。 「さて、やるか」 生姜、と言われてパッと浮かんだのは焼き茄子だった。実家に居た時、近所の農家さんから色々お裾分けを戴いていたが、特に夏は茄子を沢山貰っていた。一番好きな食べ方だったのが、焼き茄子。それを、生姜醤油で食べるのがわが家流の食べ方だった。 作り方も至極簡単で、洗った茄子をトースターに入れるだけ。今日はついでに、イカもトースターで焼いてしまおうと茄子とイカをトースターに入れて加熱を始めてから風呂に入った。 (いい感じに焼けてきてる…) トースターを覗き込むと、茄子は所々焦げ始め、イカは加熱されて反り返ってきていた。イカは事前に食べやすいよう切れ目だけ入れてある。 生姜のチューブは常備しているため、生姜醤油はあっという間にできた。生の生姜程の辛みと風味は無いが仕方ない。 イカには、味醂と醤油と酒を混ぜたものを焼いている途中で垂らした。ジュォォという音と共に、香ばしい湯気が立ち上る。 (もう少し…) ジジジジジジ…チーン! 完成。 キッチンのフキンでアルミトレイを掴むと、ローテーブルに於いてある鍋敷きの上に置く。箸と焼酎(ソーダ割り)、生姜醤油は準備済みだ。 「いただきます」 シュワッと焼酎で口を潤し、先ずは焼き茄子から。皮はしっかり焦げるまで焼いたから、向いて中身を頂く。火傷に気をつけて皮を剥くと、中からトロンとした身が出てきた。箸で割いて、生姜醤油に少しつけて…パクり。 (んー!懐かしい!夏の味だ…) フワっと香ばしい香りが口内に広がり、トロンと舌の上でトロける茄子は甘い。その甘みを生姜醤油がキリリと引き締める。そこに、焼酎。 幼い頃食べた思い出の焼き茄子の味に加わる、焼酎の大人味。大人になって良かった、とちょっとだけ思った。色々面倒な事も沢山あるけど。 そして、焼きイカ。 甘辛いく味付けされた淡白な身は弾力があり、噛めば噛むほど味が出る。それを焼酎で流し込めば疲れも一緒に流れていく気がした。 …それにしても。 食べながら、私は少々嫌な予感がした。 風呂でしっかり温まったのにも関わらず、肌寒いのだ。流石にこの熱帯夜、エアコンは点けているが28度。決して震え上がるような温度ではない。 今日は早く休もう。 私は食事を終えると、片づけをして歯を磨きベッドに転がった。肌掛けを肩までしっかり被る。 ―ピコン 「……」 多分、雄介くんだ。 スマホをスワイプしてラインを開く。 やはり彼からだった。 『お疲れ様です。 体調大丈夫ですか?無理しないで下さいね』 短い文面の後に『お大事に』とメッセージの入ったスタンプがポン、と押されていた。軽い頭痛と眠気に襲われていた私は『ありがとう』『お休み』のメッセージ入りスタンプを送信すると、そのまま眠りについた。
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