休肝日∶コンビニ弁当

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休肝日∶コンビニ弁当

先日、貴文さんの家で料理をご馳走になった。 嬉しかったし楽しかったけれど、ある事をきっかけに以前より何と無く貴文さんに対して一歩引くようになってしまった。 別に喧嘩をしている訳でも無いし、嫌いになった訳でもない。会えば普通に接している。…ラインは、何と無く送る回数が減ってしまったけれど。 彼女が居ないとボヤいていた僕に気を利かせて情報を提供してくれたのが事の発端だった。本来なら感謝すべき所なのだろうが、僕はムキになってしまったのだ。 貴文さんが僕と居る時間を僕ほど大事に思って無いのかな、会いたいのは僕だけなのかなと思ったら寂しくなってしまった。 その時の疑念や寂しさが拭い切れず、今までと同じように接する事が出来ないでいたのだ。 ……もしかして、その程度の事で寂しさを感じるなんて、友人としてはおかしいのかも知れない。 距離感を計りかねて、一歩引いて付き合う状態が続いていた。 そんな折。 珍しく夕方の早い時間に来ていた貴文さんと会った。声をかけるといつもと変わらない笑みを向けてくれたが、その顔を見た瞬間、何故か胸がざわついた。 喧嘩はしていない。普通に会話だってする。その時も、挨拶をきっかけに軽く世間話などした。もう少し話したかったけれど、呼び出しがかかってしまったので後ろ髪を引かれる思いでその場を離れた。 本音を言うと、貴文さんともっと会いたいし話もしたい。でも、距離感が分からなくなって先に一歩引いてしまったのは僕の方だ。 レジから僕を大声で呼んだのは、真中さんだった。レジのエラーが出るとかで対処していると、貴文さんが僕が落としたボールペンを届けてくれた。僕がボールペンを受け取るなり、彼女はニコリと笑って「この間プレゼントしたボールペン、使ってくれてるんですね!」と言うから苦笑いしてしまった。 だってこれは、彼女が彼女の友人と旅行に出掛けた時のお土産だったのだから。プレゼント、とは少し大げさじゃないだろうか。案の定、彼女の思わせ振りな発言のせいで貴文さんはきっと「勘違い」をして帰っていってしまっただろう。 僕は大きな溜息をついた。 早々に誤解(・・)を解いて、そして改めて、彼女がその気でも僕は付き合う気がないと伝えなければ。 ……でも それを伝えた所で、貴文さんはどう思うのだろう。 彼女を作るより貴文さんと居たいと言ったら、変な奴だと思われるだろうか。友人として「近すぎる」と敬遠されないだろうか。 …怖い もし、それで嫌われてしまったら。 もっと距離を置かれてしまったら。 そうなるくらいなら、いっそ一歩引いたままの距離で付き合いを続けた方がいいのではないか。そうだ、その方がいい。頭では分かる。しかしそう思えば思う程、胸は締め付けられるように苦しかった。 最近仕事が終わってもなかなか自炊する気になれず、今日に至っては職場(スーパー)で弁当を買うことすら忘れてしまった。仕方なくコンビニに寄り、弁当を買って帰宅した。 「…いただきます」 大して食欲も無かったけど、腹が減ったから取り敢えず食べる。コンビニ弁当を食べながらふと、貴文さんが熱を出した時の事を思い出した。 (あの時の夕飯も、同じコンビニ弁当だっけ…) 体調が悪いのに僕の夕飯の心配までしてくれて、結局夕飯を一緒に食べる事になったのだ。あの時はただのコンビニ弁当がやたら美味しく感じたのに、今日はまるで味がしなかった。 …寂しい。 ……会いたい。 もっと、近くに居たい… 「友人」という関係では、それは叶わないのだろうか。自分はもう「友人」としての関係では物足りなくなっているのだろうか。 しかし、これ以上は…… 苦しい 苦しい…! 僕はどうしたらいいのだろう… 叫びだしたくなる気持をグッと堪え、僕は味のしない弁当をかき込んだ。
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