第二十七夜∶ざる蕎麦

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第二十七夜∶ざる蕎麦

「えっ?研修?明日からですか?!」 休み明け、出社するなり上司に呼び出され告げられたのは急な出張だった。 「うん、異業種交流を兼ねた研修会。行く予定だった子が大きな契約の商談が入っちゃってね。ついでと言ったら何なんだけど、ヘルスケア商品の展示会があるから色々見てきてよ」 「はぁ…分かりました」 ついでって言うくらいなら行かなくていいですか。 という言葉を飲み込んで作った笑顔は多分引き攣っていただろう。この上司には段取りとか準備という概念は存在しないのだろうか…。 苦虫を噛み潰しながらデスクに戻り仕事のスケジュールなどを確認すると、私は明日からの出張の準備に忙殺された。 「疲れた…」 私が不在になる4日間の仕事の段取りを今日1日で全て済ませてしまわねばならず、当然のように残業になった。明日から出張だというのに、既に疲労困憊。スーパーも閉店ギリギリの時間なので、仕方なく私は会社近くのコンビニに寄る。 腹は減っていたが暑さで食欲が出ず、口当たりの良いざる蕎麦だけ購入し帰路についた。 「ふぅー…」 風呂から上がると冷蔵庫から先程買ってきた蕎麦とビールを取り出し、ローテーブルの前に座った。思わず長い溜息が出る。 (明日早いから1本だけ…) 蕎麦は大したツマミにならないが、何はなくとも飲みたい気分だった。 「いただきます」 久しぶりの、コンビニの蕎麦。 サッとほぐし水でほぐして、付属の汁につけていただく。麺はそこそこだったが、汁は出汁がよく効いていて意外に美味かった。味が濃いめで、ビールを合わせても割と合う。 食欲があまり無い私に量も丁度良く、あっと言う間に食べ終えた。のろのろと片付け出張の支度をしながら、ふと思った。 (日常から少しの間離れる事は、今の自分にとっていい気分転換になるのではないだろうか…) 急な出張なんて負担がかかるだけで自分にとってデメリットしか無かったが、モノは考えようだ。ついでに、何か現地で美味しいものでも食べてきてやろう。そう思ったら、憂鬱だった気持ちが少しだけ軽くなった気がした。 私はキャリーバッグに荷物を詰め込むと、アラームをセットし明日に備え直ぐに眠りについた。
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