休肝日∶ナポリタン

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買い物を済ませ、貴文さんの家を訪れた。暑い中歩いてたので汗でベタベタだ。きっと貴文さんはすぐシャワーするだろうと思い、手を洗いながら声をかけた。 「良かったらシャワーどうぞ」 「ありがとう。雄介くんもシャワーしなよ」 「え!いや、大丈夫です!あ…汗くさい、ですかね…」 迷惑かけられない、と思ったが汗臭いのであれば話は別だ。僕は着ているTシャツに鼻を寄せて匂いをかぐ。すると、貴文さんは慌てて手を振った。 「違う違う!汗が冷えて風邪ひくといけないからさ。ほら、いつかの僕みたいに」 ああ、そういうことか。と苦笑いする貴文さんの顔を見て安心した。 「じゃぁ、お言葉に甘えて、貴文さんの後に。貴文さんが出てくるまで下準備しておきますね」 「ありがとう」 野菜を全て切り終えると、貴文さんが出てきた。相変わらず、シャワー後の姿を見るとドキドキしてしまう。変に意識してしまわないように、僕はすぐシャワーに向かった。 (あれ…服がない) シャワーから出てくると、たたんで置いておいた筈の服がない。貴文さんに聞くと、どうやら洗濯してくれたようで驚いた。 「えっ!?すみません!」 お手伝いのつもりで夕飯を作りに来たのに、これでは逆に疲れさせてしまっているではないか。気にする僕に、貴文さんは「僕が勝手にやったから気にしないで」と声をかけてくれた。 (…優しい) 頑張って美味しい夕飯を作らねば! 僕は気を取り直してキッチンへに立った。貴文さんに座ってて下さいと声をかけたが、見ていたいと言うのでそのま調理を始める。 (見られるとドキドキするな) そんなに距離が近い訳ではないが、やはり少し緊張した。一つ深呼吸すると、卵とレタスとツナの炒め物に取り掛かった。 (いつも通り、いつも通り…) 「レタス、炒めるんだね…!」 出来上がった料理を見て驚く貴文さんに、僕は小さく頷いた。 「母がよく喫茶の残りのツナとレタスで作ってくれたんです。レタスが甘くなってツナの塩気といい塩梅になるんですよ」 そう言って皿を貴文さんに渡した。 あともう一品、ナポリタンに取り掛かる。 シャワーする前に切っておいた野菜とウインナーを、少しの砂糖とサラダ油で炒める。フライパンの端を少し空け、ケチャップとバターを入れて水分をとばす。ある程度煮詰まったら全体を絡め、貴文さんが茹でておいてくれたパスタを入れて塩胡椒で味を整えたら完成だ。 作っている途中で貴文さんはキッチンを離れ、ベランダに出て洗濯物を干している。ナポリタンが出来上がり、皿をローテーブルに運びながらベランダにいる貴文さんをチラリと見た。二人分の洗濯物を干す姿を見て、何だか同棲しているみたいだなとくすぐったい気持ちになった。 テーブルに全ての料理が整ったタイミングで、貴文さんがベランダから戻ってきた。 「「いただきます」」 声を揃えて合掌。久しぶりに向かい合っての食事だ。前回来た時から間はあまり空いていない筈なのに、酷く久しぶりに感じた。 僕が作った料理を、貴文さんは本当に美味しそうに食べてくれた。特にナポリタンが気に入ったようで、べた褒めしてくれた。 「何かコツがあるの?こんな美味しいナポリタン初めて食べた」 「コツ、ですか…?父が店で作る時も母が家で作る時も殆ど同じ作り方だったから、一般的な作り方との違いが分からなくて」 「これが食べたくなったら、呼んでください」と笑いながら冗談半分で言ったら、貴文さんは大真面目に頷いた。 お腹より先に、胸がいっぱいになってしまって。 「どうしたの、あまり食欲ない?」 気遣ってくれる貴文さんに、僕は正直に気持を伝えた。 「いえ、違うんです。何かちょっと、胸がいっぱいで…」 「……?」 「またこうやって一緒にご飯食べれて、嬉しいなぁって…」 すると貴文さんは食べる手を止め、殊更優しそうに微笑んた。 「僕も嬉しいよ。雄介くんと一緒に食べると、同じ料理でも余計美味しく感じる」 「ありがとうございます」 (人って本当に幸せを感じると、泣きたくなるんだな…) 精一杯の笑顔だったが、涙が零れ落ちそうだった。 「これからも宜しくお願いします、貴文さん」 「こちらこそ」 「親しい友人」という関係でも 今、この瞬間が幸せだった。
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