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「もう、戻りますわ」
兄さまの胸から意を決して離れます。
叶うなら、あたたかく優しいあの場所に、ずっといたかった。
「兄さまは、本邸に?それとも、結城の家に顔を出されるのですか?」
「……結城に」
「そう。よろしくお伝えくださいませ……美都は逃げませんし、きちんと添い遂げる意思がありますので、もうお薬は不要です。と」
「わかった」
苦しげな表情を見せ、兄さまが頷きました。
そんな表情すら、美しい兄さまです。
「では、ごきげんよう」
きっと、もう会わない。
会ってはいけない。
ふと眼前に広がる、海沿いに咲く白い花々。
可憐な見た目なのに、むやみに触ってはいけない花。
「兄さま、来年には咲くように、庭の一角を戻してくださいませね。花に罪はありませんから」
「……あぁ、約束する。お前との約束だ。今度こそ、ちゃんと守る」
「以前の約束も、最後の一つはまだ叶うかも知れませんわ。遠い未来、願ってます……」
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