16人が本棚に入れています
本棚に追加
お庭には、まだ前日の雪が残っていました。うっすらと雪を被った椿は、白に隠れる事なく、寒さも感じさせず咲き誇っています。
お芳さんに支えてもらいながら、そっと椿に近づき雪を払った瞬間、ぽとっ、とその花が落ちてしまいました。
落ちてなお花の形を保つ。気高ささえ感じる一方で、まだ咲く事が出来たんじゃないかという切なさがこみあげてきます。
「美都?」
落ちた椿に気を取られていたところ、声がかけられました。
「……兄さま?」
「大丈夫なのか?外になど出たりして」
「はい。今日は天気もいいですし……あっ」
兄さまのもとへ向かおうとしたら、足が上手く動かなくて、思わずよろけてしまい。
そんなわたくしを、兄さまは優しく支えてくださった。
「まだ本調子じゃないようだね。無理せず部屋に戻りなさい。ほら、寒さで身体が冷えてしまう」
兄さまはそっと頬を撫でて、わたくしの体温を確認されました。触れた兄さまの手のひらは、とても温かいです。
「はい。わかりました」
わたくしの返事に優しく微笑んで、兄さまは背を向けられました。離れていく背中を見送っていたら、何故か胸が締め付けられるように痛くなります。
「さあ、お嬢様。戻りますよ」
お芳さんに促され、私も部屋に戻ろうとしたところ、庭の隅に何か引っかかりを感じました。
「ねえ、お芳さん。あそこ。前には何か植えてなかったかしら?」
「どこです?」
「あの隅。何か咲いていた気がするんだけど……」
「どうでしょうね?私は庭の事はちっともわかりませんが。今、何もないなら、なかったんじゃないですか?さ、戻りますよ」
そうね。と返事をしながらも、わたくしはその一角が、何故かとても気になりました。
最初のコメントを投稿しよう!