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起き上がれるようになったものの不調は続き、女学校へも行けない日々が続いていました。ほんの少し前までは、何不自由なく身体が動いていたというのに。
倒れてしまったあの日。一体、何があったというのでしょう?
わたくしは、何を忘れてしまったのでしょう?
胸の奥、大事なところがぽっかりと穴が空いてしまったように、寂しさだけが残っています。
満足に動けないわたくしに出来る事は、こうして庭を眺める事だけ。
時折聞こえる鳥の鳴き声だけが、新たな楽しみになりました。
訪れてきては、羽ばたいて行く。
どこまでも、遠く、高く。
飛べないわたくしは、どうなってしまうのでしょう。
飛び立った鳥を見送り、視界を下ろした先に、兄さまが立っている事に気付きました。
「兄さま?どうされましたか?」
「いや……」
そのまま少し立ち止まっていられましたが、大きく一歩踏み出して、こちらに向かって来られました。
目の前までいらしたかと思ったら、そっと、指でわたくしの頬を撫でます。
「あ、涙……?」
どうやらわたくしは、知らず知らず涙を流していたようです。
「何か、あったのか?」
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