水仙が咲く場所

7/14
前へ
/14ページ
次へ
「いいえ。ただ、知らずと零れ落ちてしまったようです。鳥を、見ていただけなのですが」 「そうか。鳥を……」 「少し羨ましかったのです。何故か、こんな身体になってしまって。そこに至る記憶もなくて。わたくしは、どうして……」  最後まで言葉は口にできませんでした。  兄さまが、わたくしを強く抱き寄せられたので。 「……兄さま?」  強い力の中、兄さまが微かに震えている事に気付きました。  泣いて、いらっしゃるの? 「すまない」  一言だけ、呟いて。  兄さまはそのまま、足早に立ち去ってしまいました。  後には私の身体に微かに残った、兄さまの温もり。  それもすぐに、夢のように消えてしまいました。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加