16人が本棚に入れています
本棚に追加
少しずつ回復はしているものの、手の痺れやふらつきはおさまらず。
ただ、生きるだけの日々が続いた中、お父さまから思いがけない話を聞く事になりました。
「おまえの縁談が決まったよ」
「縁談?わたくしの?」
女学校へ通えなくなってひと月。このまま戻れない事も覚悟はしていました。そもそも、わたくしはこの先、生きていけるのかさえ、わからないのです。
「こんな不自由なわたくしを引き受けてくださる先なんて……」
「美都は覚えているかい?昔、別邸で一時期過ごしていただろう?」
海岸沿いにある別邸。
幼い頃。どこまでも広い草原を、裸足で駆けては寝転んで。そのまま眠ってしまって怒られた事もありました。
そう。追いかけっこをしたり……
追いかけっこ?どなたと?
兄さま?いいえ。兄さまはいなかった。
そう。兄さまは本邸。わたくしだけ、別邸。
わたくしだけ……何故?
「うっ……」
「美都?大丈夫かい?」
「だい、丈夫ですわ。色々な記憶がまだ、曖昧で……」
「そうか。まあ、幼かったからな。だが、そこで一緒に過ごした結城の嫡男が、おまえを嫁に欲しいそうだ」
最初のコメントを投稿しよう!