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結城……そう伝えられても、記憶にない。
先程思い出した、追いかけっこの記憶は彼なんでしょうか。
「こちらの事情は伝えてある。正直、おまえが嫁いで務めを果たせるかわからない、とも。それでもかまわないそうだ」
「まあ」
家のために嫁ぐのはもちろん。嫁ぎ先では当然、世継ぎを期待されるというのに。果たせなくてもかまわないというのは、つまり。
これは家同士の婚姻ではあるが、世継ぎは妾の子でもかまわない、という事でしょう。
わたくしとしても、こんな身体である以上、婚姻していただけるだけでも、有難いというもの。
「かしこまりました。縁談、お引き受けします」
「うん。結城の嫡男は相当おまえの事が忘れられなかったそうだ。家柄の釣り合いもいいし、それだけ思われて嫁ぐのは、きっと幸せになるだろう」
そうですわね。望まれて嫁ぐのです。
とても有難いお話……なのに。
どうして、こんなに、胸が苦しいのでしょう。
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