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月日は流れ
それから五十年の月日が流れました。
老婆となったお姫様は、幼い孫たちを引き連れて、あのお城を訪れていました。ひとつには懐かしくて、また孫たちに自分の体験したことを教えてやりたい気持ちもありました。
主のいなくなったお城は古びて、そこかしこにツタが張っていました。
石畳の階段を登って行っても、もう昔のようにたいまつが着くこともありませんでした。
ロゼッタ姫は、ランプをかざし、階段を登っていきました。孫たちがあとからついてきました。
「やれやれ、こんなに階段は長かったのだったかしら」
腰に手を当て、一段一段登りました。
お姫様の暮らしていた最上階の部屋に着くと、案外にも小さい部屋だったことに驚きました。部屋の隅々に、埃が積り、モップもほうきも暖炉も、死に絶えてしまったかのように見えました。
「おばあ様は、このお部屋で子供の頃暮らしていたのよ」
孫たちに語り掛けると
「ひとりで暮らしていたのでしょう?」
「え、ひとりで? そんなの寂しいよ」
「おばあ様、可哀そう」
と、小さな姫や王子たちは口々に言いました。
(可哀そう? そうかしら。私はここで、静かに、しあわせに過ごした記憶しかないわ)
お姫様は目を閉じて、もう失われてしまった音のない世界に思いを馳せました。
(生きているうちにここに来ることは、もうないと思う。でもみんなのことは忘れないわ。ありがとう)
こころのなかで、お姫様はみなにお礼を言うのでした。
〈おしまい〉
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