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しあわせな時間
そんな孤独な仕事が終わると、疲れた身体を引きずって、お城まで歩きました。お城に着くと、自然に鉄扉が開き、お姫様はなかに入ります。
長い階段を登ろうとすると、お姫様の行く手を照らすように、壁のたいまつが着き、お姫様が通りすぎると消えるのでした。
お城の最上階のお部屋につきますと、既に暖炉の火は赤々と燃え、石のソファの前の石のテーブルの上には、温かいスープと、パンにチーズと卵を乗せて焼いたものが置かれていました。
お姫様は夕食を口にします。
暖炉の火は暗闇のなかで力強く燃え、疲れたお姫様の身体を温めてくれます。チーズと卵の乗ったパンをお姫様はとても美味しいと思いましたし、毎日この瞬間が最高に幸せだと思うのです。
そして食べ終えるか食べ終えないかのうちに、石のソファに横たわり、眠ってしまうのでした。
お姫様は言葉を知らないわけではありませんでした。親切なモップは、幼かったお姫様にアルファベットの本を渡して、文字の勉強をさせましたので、お姫様はいまでは難解な哲学書だって、読み解くことができるのでした。
文字列に意味があることを、お姫様は知っていました。
ただ、誰かがしゃべる声を聞いたこともなければ、自分に声が出せることも知らずに育ってしまったのでした。朝、窓辺にいる鳩たちの穏やかな鳴き声を、うらやましいと思うのです。
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