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訪問者
そんなある日、お城に精悍な若者がやってきました。
派手な装束に身を包んだその若者は、お姫様がまだ眠っているうちに最上階までやってきて、いきなりお姫様に抱きつきました。お姫様はびっくりして、石のソファの隅で震えました。
「わが妹よ! 驚くのも無理はない。十六年ぶりだからね。喜ぶがいい。戦争は終わったのだ。国に帰れるぞ!」
ところがお姫様には言葉がわかりません。ただ、男がとても大きな声でなにか言っていることには、驚いてしまいました。
(なんなの、このひと! ひとの寝ているところへいきなり乗り込んできて、がーがー鳴いて。失礼にもほどがあるわ!)
お姫様は思いました。けれど男には伝わりません。
「ロゼッタ! どうした。なにか言ってごらん。お前も西の国に囚われて、さぞかし怖い想いをしたことだろう。道中、そのはなしを聞いてやろう」
お姫様はこの若者の声の大きさにうんざりしました。でも親し気な笑みは、嫌いにはなれません。お姫様は立ち上がると、壁に色石を使って文字を書きました。
―――私はしゃべれません。しゃべり方がわからないのです。あなたは誰ですか? なにを言っているのですか?―――
若者には通じたようでした。
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