訪問者

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「なんとまあ、可愛そうなロゼッタ! それは病気なのかい?」  ロゼッタ姫には通じません。代わりにお姫様は男に色石を渡しました。 「書けっていうのかい? まいったな。戦続きだったから、スペルには自信がないんだけど、勘弁してくれよな」  男はしばらく壁に向かって立っていましたが、やっぱり振り返って 「ところで、耳は聞こえるのかい?」  と訊きました。お姫様は壁に書くように、ジェスチャーしました。男は頭を搔きながら、再び壁に向かい ―――俺、カイル。お前、ロゼッタ。俺、お前の兄。王子。お前、姫。国に帰る。迎えに来た―――  と書きました。 ロゼッタ姫はそこで初めて、自分がロゼッタという名の姫であること、カイルという兄が迎えに来たことを知ったのでした。そして、いま自分がいるところが、自分の国ではないということも。
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