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#03 浮気
恋人のスマートフォンの中に幸せはない。そんなことわかっていたけれど、美蘭の手は伸びた。
「リ、カ……?」
場所は康隆の自宅リビング。カタカナで表記された人名は本名なのか、それともキャバクラ嬢などが使う源氏名なのか、はたまたカモフラージュの偽名なのか判別はつかなかったが、美蘭が不快に感じたのはそこではない。
「な、なによこのトーク。ハートだらけじゃないっ……」
液晶画面いっぱいに散りばめられた絵文字とその内容が、彼女の全身を嫌悪感で蝕んでいく。
『この前の康隆、すっごくよかったあ!♡次はいつ空いてる?♡』
『あーあ、早く康隆に会いたいなあっ♡今度のデートで行きたいところ探しながら、今日は寝まーすっ!チュ♡』
『えー!ドタキャンなんてひどーい!でもまあ、お母さんの体調が悪いなら仕方ないかあ。その代わり、次に会った時はいつも以上に激しく愛してね♡』
康隆がシャワーを浴びている隙に見てしまったそれは、紛うことなく、浮気の証拠だった。彼女面したリカが送りつけてくるメッセージだけでなく、彼も彼で、まるで彼氏のようなメッセージを送信していたことが、美蘭に鳥肌を纏わせた。
『今日のリカも、すっごいよかったよ』
『俺も早く逢いたい』
『今日はドタキャンしてごめん。母さんの体調よくなったら、また連絡する』
シャワーの流れる音と康隆の鼻歌を耳に、食卓でひとり項垂れる美蘭。テーブルの上に置いてあったペアのマグカップが、物哀しく瞳へ映る。
お揃いでなにか買おうって言って、康隆と雑貨屋さんへ行った時は、あんなに幸せだったのに……
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