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まだ引っ越ししたての頃。浮気の心配など微塵もなかった彼を思い出せば、ふと涙が溢れそうになる。
「やっぱり、裏切られてたんだ……」
愛する人に女の影。美蘭が彼を疑い始めたのは、ふたり揃って同じ大学を卒業し、各々勤め出してから。
「康隆の、ばか……」
もしかして、まさか、が現実になり、美蘭は居ても立っても居られない。康隆のスマホを元あった位置に戻し、彼女は自身のスマホをタップした。
「あれ、美蘭どうしたの?」
シャワーを浴び終えた康隆が目を丸くさせたのは、美蘭が身支度を整えていたから。
「今日はこのままうちに泊まるって言ってなかった?なに、帰るの?」
タオルで濡れた髪を拭いながら、そう平然と聞いてくる康隆の前を彼の目も見ずに通り過ぎ、美蘭は玄関でヒールを履く。
「帰る」
「なんで」
「ちょっと今から、あずさと会うから」
「え。あずさって、大学ん時の?なんでまた急に」
「わたしたちが未だに超超仲良いの知ってるでしょっ。どっちかに誘われたら、冠婚葬祭じゃないかぎり飛んで行くって約束してるのーっ」
その誘った『どっちか』が、今日は美蘭の方なのだけれど、彼女はそれを敢えて伏せた。ふうん、と納得のいかなそうな康隆を尻目に、美蘭は「じゃあね」と扉を開ける。
「明日は、またうち来れる?」
「……わかんない」
「じゃあわかったら、連絡して」
「ん……」
短い会話を終え、バタンと扉を閉めて、美蘭はあずさの家へと急いだ。
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