151人が本棚に入れています
本棚に追加
暦通りで休む康隆の会社と、カレンダーの赤い日こそ忙しいわたしの会社。やっぱりこれがいけなかったのかな。学生時代は土日いつも一緒にいられたのに、休みを合わせることすら難しくなって。でも、それでもまだ五月だよ?こんなに早く音を上げるなんて、康隆はそんな人じゃない。それに、デートはできなくても、お泊まりは頻繁にしてるし。それにそれに、康隆のお母さんが体調崩したなんて聞いたことないっ。きっと康隆は、しつこいリカにうんざりして、嘘をついて断ったんだ。そうだよ、そうだ。これはなにかの間違いだよ!
愛する康隆を信じたい。その気持ちがあるせいで、美蘭は踏ん切りをつけずにいる。
「別れ、たくない……」
絞り出されたようなその声に、あずさは少し驚いた。
「浮気、されてるのに……?」
「これが浮気じゃなかった時に、わたし絶対後悔する。こんなにわたしを愛してくれる人、もういないもん……」
浮気じゃない。康隆とリカのトーク内容を聞かされているあずさにとっては、そんな可能性ゼロにも等しいと思えたが、親友である美蘭がまだその可能性を信じているのであれば、ここは第三者が口を挟む立場にないと判断し、彼女を鼓舞する側にまわる。
「そうだね。大学の時から康隆くんって、異常なほど美蘭のこと好きだったもんね」
「え……?」
「美蘭は知らないと思うけどさあ、美蘭に言い寄ってきた男の子たち、みーんなあとで、康隆くんにボコボコにされてんだよ」
「え、こっわ……」
「あははっ。ボコボコは言い過ぎかっ。でも多少のお咎めは食らったって噂。『俺の美蘭に手を出すな』って、『美蘭は俺のもんだ』って。卒業式の日もあんた、告られたんでしょう?そのあとも大変だったらしいよお?」
まったくモテモテなんだから、と茶化すあずさの胸元で、美蘭は暴力はだめだと思ったけれど、ついこの前の三月までわたしを愛してくれていたんだと知れば、それは自信に繋がった。康隆は、こんなにも急に心変わりする人じゃない、と。だから彼女は、様子見に留まることを決めたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!