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ゲホゲホと咳き込みながらも気持ちとは正反対の言葉を並べていき、愛があるように見せつける。さもなければ彼は再びこの首元の手で、酸素の通り道を塞いでくると思ったから。
康隆の瞬ぎもしない瞳と視線が絡んでいる間は、生きた心地がしなかった。態度ひとつでも間違えれば殺される。美蘭はそんな恐怖に駆られていた。
「好きよ、康隆……だからお願いっ、わたしを信じてっ…」
そう言うと、また少し息がしやすくなる。この地獄から抜け出すにはもう一歩。ショパンの『別れの曲』が、異様な雰囲気を醸し出す。
「美蘭は一生、俺の彼女……?」
「うん」
「死ぬまでずっとずっと、俺のもの……?」
「うんっ」
心の底から出した声。嘘偽りだらけの頷きを見破れなかった康隆の手が、そっと美蘭の首から離れていく。
「ああ、よかったっ。まじで俺、フラれちゃうのかと思ったよっ」
康隆と美蘭が付き合ってからは丸四年。もう幾度となく抱かれてきた彼の胸元で、彼女に後悔が押し寄せる。
ごめんなさい、翔眞さんっ。わたし、上手にできなかったっ。彼氏と別れられなかったっ。約束を守れなくて、本当にごめんなさい……
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