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「こんな雨の日こそ内覧した方がいいのになあー。そうしたら屋根の煩さとか、わかるのに」
翌日の空は、台風にも似た雨雲が支配していた。店に鳴くのは閑古鳥。窓をキュイと拳の側面でなぞりながら、翔眞は「誰も歩いてないや」と呆れ笑う。
「谷口さんの彼氏さんは、こんな日お迎えとか来てくれるの?」
あまりにも激しい雨に、保育園や小学校から連絡が入ったママ社員たちは、こぞって帰宅。よって店に残っているのは、遅番の翔眞と美蘭のふたりだけ。口数の少ない美蘭と何か会話でも、と思い翔眞が取り出した話題は、図らずとも彼女の涙を誘ってしまう。
「え!ご、ごめんっ!俺なんか、変なこと言った!?」
いきなり泣き出す美蘭に対し、慌てふためくのはもちろん翔眞。
「ど、どうしたの!?もしかして彼氏さんと喧嘩中だったりした……!?」
ティッシュかいやハンカチか、と彼が迷っている間に、美蘭は自身のもので瞳を拭う。ザーザーとアスファルトを叩きつける雨粒の音が、悲しい雰囲気を作っていく。
「か、彼は……」
たった数ヶ月でリカに恋をした康隆も康隆ならば、たった数ヶ月しか共に働いていない一宮さんにこんな話をするわたしもおかしいのだろう、と思いつつ、美蘭は昨夜の出来事を口にする。
「彼は今日、他の子とデートなんです…その子とホテルに行く約束をしてるメッセージを、わたし昨日見ちゃったんです……」
見なければよかっただなんて、後悔は生まれない。いつか愛を取り戻せると期待したわたしは何だったのかと、そっちの感情の方が大きい。
「谷口さんの彼氏さんが、浮気……?」
美蘭の隣の椅子に腰掛けた翔眞は、コロッとそのキャスターを転がせて、彼女との距離を縮めて言う。
「なんでそんな……そんな酷いこと、谷口さんにできるんだよっ」
俯き顔を美蘭が上げると、心配そうな目と目が合って、ぽろぽろと今までのことを溢してしまう。
「実は……」
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